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最終話
しおりを挟む先王ファーガスを背中から刺し、王妃様は長い長い眠りにつきました。
その体は淡い黄金色に輝き、食事も排泄もなさらないのに痩せたりせずに眠り続けております。王妃様の部屋で見つかった日記には、一目見て震えがくるほどの先王ファーガスへの呪詛が綴られておりました。王妃様は結婚間近の婚約者を事故として殺され、ご実家の公爵家を破産寸前まで追い詰められて、お腹の子供ごとルネライト王家に売られたのです。挙句に婚約者と同じ夕焼け色の宝石瞳の子供を『要らないもの』と殺された。あの儚げな微笑みの下に、一体どれだけの憎悪を隠していたのでしょう。
そして先王ファーガスは、王妃様の刺した短剣が抜けず、そこからグズグズと腐り落ちていくという奇病におかされました。今まで手にかけた方々が耳元でずっと囁いている、と苦しんでおりますが、多分、脳の壊死が部分的に始まっているのではないかと思います。
先王ファーガスの愚行は広く民の知るところになり、セオドア様は先王ファーガスを食い止めようとした英雄のような扱いです。あらあら、まあ……せっかく愚者のようにお振る舞いになったのに、残念でございましたわね、セオドア様。オブライエン様は本当に良い仕事をしてくださいます。うふふ…これが真の情報統制というものですわ。
セオドア様はルネライトの王族の血筋ではないということで廃太子となり、わたくしが女王となりました。まああれです。わたくしは女王でも側妃でもお仕事内容は変わらないのですよ。さあバリバリお仕事をして、双子が大きくなったら王位など丸投げして3人でのんびり暮らすのです。
混乱に乗じ、わたくしはセオドア様にお胤がないことを公表いたしました。そのおかげかセオドア様はわたくしの夫のまま。ですが、王は何人でも配偶者を娶れるとのことですのでわたくし、ケイレブも夫にいたしました。……ええ、以前と何が違うというのでしょう。言っていて少し悲しくなりますね?
帝国の間諜天国となっていたエーメリ辺境伯領の混乱も収まり、わたくしが女王として正式に抗議いたしました。激しい遺憾の意、というものですね。わたくしの婚姻の儀の際に皇帝陛下が公爵邸にお泊まりになったのは、ルネライトの戦力というよりは、シーグローブの戦力の把握をしたかったのではないでしょうか。食えないお方です。でもわたくし、お姉様の愛するお方といえど、負ける気はございませんのよ?今回のエーメリ間諜事件も、わたくしサクッと条約違反金を毟り取りました。臨時収入です。国境の壁でも補強致しましょう。
双子の王子たちはどんどん大きくなります。
シャーロット様のお子様を含む『ニューランズ男爵家』の方々は、王家の管理のもと恙無くお暮らしのようです。先王ファーガスの愚行が知れ渡っているので、あの青い髪の一族を旗印に担ぎ出す愚か者はいないでしょうが、あの元気な自称お姫様にはきちんと釘を刺しておきました。「貴女が自分を姫だと吹聴して回るなら、わたくしは国を守るために青い髪の一族を全て処刑しなくてはならない」と。わたくしが女王だと知って真っ青になって頷いていましたが、さて……本当に実行せざるを得ない状況にならないと良いですね?
双子が14歳になり、「世界征服をする!」などと言い始めました。……ああ、わかりました。これが『厨二病』という、世の少年少女が罹患する病ですね?「だから母上は国を回してね?僕らが国を獲ってくるから」と。はいはい、良い子ですね。護衛や侍従たちに迷惑かけないくらいで遊んでくださいね。母はお仕事頑張りますよ。従兄弟叔父様に移住していただいて、やっと国内に蒸気機関車を張り巡らせる計画が始まったところですし。
この時、本気で双子を止めるべきでした。うちの双子は本当に狗とルネライト軍を引き連れて帝国に宣戦布告。慌てるわたくしとケイレブを、笑いながら止めたのはお父様とセオドア様です。数ヶ月後に帝国軍が瓦解。皇帝陛下に「お前んとこの双子おかしい!魔王か!?」と泣きながら降伏宣言をされました。えー……えええー……。
日々は穏やかではありませんが過ぎていきます。
先王ファーガスであった肉塊の最後の一欠片が崩れ落ちた日。王妃様が息を引き取りました。微笑むような、安らかなお顔でございました。きっと先に亡くなられた婚約者が迎えにいらしたのでしょう。セオドア様の涙を初めて見ました。ああ、そうですね。わたくしたちも少しずつ変わっているのです。わたくしとケイレブはセオドア様をぎゅっと抱きしめました。
セオドア様。貴方がわたくしを側妃に、とおっしゃいました。わたくしあの日、本当はとてもショックでしたのよ?浮気者、嘘吐き、そんなに巨乳が好きか!?と引っ叩いて差し上げたかったのに、先にケイレブが怒ってしまうのですもの。
貴方がわたくしを側妃に、と言いました。
もう一度あの日に戻れたとしても、わたくしはこう答えるのでしょう。
「承知いたしました、ただし条件がございます」……と。
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