側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや

文字の大きさ
上 下
89 / 92

最終話

しおりを挟む


先王ファーガスを背中から刺し、王妃様は長い長い眠りにつきました。

その体は淡い黄金色に輝き、食事も排泄もなさらないのに痩せたりせずに眠り続けております。王妃様の部屋で見つかった日記には、一目見て震えがくるほどの先王ファーガスへの呪詛が綴られておりました。王妃様は結婚間近の婚約者をとして殺され、ご実家の公爵家を破産寸前まで追い詰められて、お腹の子供ごとルネライト王家に売られたのです。挙句に婚約者と同じ夕焼け色の宝石瞳の子供を『要らないもの』と殺された。あの儚げな微笑みの下に、一体どれだけの憎悪を隠していたのでしょう。

そして先王ファーガスは、王妃様の刺した短剣が抜けず、そこからグズグズと腐り落ちていくという奇病におかされました。今まで手にかけた方々が耳元でずっと囁いている、と苦しんでおりますが、多分、脳の壊死が部分的に始まっているのではないかと思います。

先王ファーガスの愚行は広く民の知るところになり、セオドア様は先王ファーガスを食い止めようとした英雄のような扱いです。あらあら、まあ……せっかく愚者のようにお振る舞いになったのに、残念でございましたわね、セオドア様。オブライエン様は本当に良い仕事をしてくださいます。うふふ…これが真の情報統制というものですわ。

セオドア様はルネライトの王族の血筋ではないということで廃太子となり、わたくしが女王となりました。まああれです。わたくしは女王でも側妃でもお仕事内容は変わらないのですよ。さあバリバリお仕事をして、双子が大きくなったら王位など丸投げして3人でのんびり暮らすのです。

混乱に乗じ、わたくしはセオドア様にお胤がないことを公表いたしました。そのおかげかセオドア様はわたくしの夫のまま。ですが、王は何人でも配偶者を娶れるとのことですのでわたくし、ケイレブも夫にいたしました。……ええ、以前と何が違うというのでしょう。言っていて少し悲しくなりますね?

帝国の間諜スパイ天国となっていたエーメリ辺境伯領の混乱も収まり、わたくしが女王として正式に抗議いたしました。激しい遺憾の意、というものですね。わたくしの婚姻の儀の際に皇帝陛下が公爵邸にお泊まりになったのは、ルネライトの戦力というよりは、シーグローブの戦力の把握をしたかったのではないでしょうか。食えないお方です。でもわたくし、お姉様の愛するお方といえど、負ける気はございませんのよ?今回のエーメリ間諜事件も、わたくしサクッと条約違反金を毟り取りました。臨時収入です。国境の壁でも補強致しましょう。

双子の王子たちはどんどん大きくなります。

シャーロット様のお子様を含む『ニューランズ男爵家』の方々は、王家の管理のもと恙無くお暮らしのようです。先王ファーガスの愚行が知れ渡っているので、あの青い髪の一族を旗印に担ぎ出す愚か者はいないでしょうが、あの元気なにはきちんと釘を刺しておきました。「貴女が自分を姫だと吹聴して回るなら、わたくしは国を守るために青い髪の一族を全て処刑しなくてはならない」と。わたくしが女王だと知って真っ青になって頷いていましたが、さて……本当に実行せざるを得ない状況にならないと良いですね?

双子が14歳になり、「世界征服をする!」などと言い始めました。……ああ、わかりました。これが『厨二病』という、世の少年少女が罹患する病ですね?「だから母上は国を回してね?僕らが国を獲ってくるから」と。はいはい、良い子ですね。護衛や侍従たちに迷惑かけないくらいで遊んでくださいね。母はお仕事頑張りますよ。従兄弟叔父おじ様に移住していただいて、やっと国内に蒸気機関車を張り巡らせる計画が始まったところですし。

この時、本気で双子を止めるべきでした。うちの双子は本当に狗とルネライト軍を引き連れて帝国に宣戦布告。慌てるわたくしとケイレブを、笑いながら止めたのはお父様とセオドア様です。数ヶ月後に帝国軍が瓦解。皇帝陛下に「お前んとこの双子おかしい!魔王か!?」と泣きながら降伏宣言をされました。えー……えええー……。

日々は穏やかではありませんが過ぎていきます。

先王ファーガスの最後の一欠片が崩れ落ちた日。王妃様が息を引き取りました。微笑むような、安らかなお顔でございました。きっと先に亡くなられた婚約者が迎えにいらしたのでしょう。セオドア様の涙を初めて見ました。ああ、そうですね。わたくしたちも少しずつ変わっているのです。わたくしとケイレブはセオドア様をぎゅっと抱きしめました。


セオドア様。貴方がわたくしを側妃に、とおっしゃいました。わたくしあの日、本当はとてもショックでしたのよ?浮気者、嘘吐き、そんなに巨乳が好きか!?と引っ叩いて差し上げたかったのに、先にケイレブが怒ってしまうのですもの。

貴方がわたくしを側妃に、と言いました。

もう一度あの日に戻れたとしても、わたくしはこう答えるのでしょう。









「承知いたしました、ただし条件がございます」……と。










しおりを挟む
感想 384

あなたにおすすめの小説

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

処理中です...