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たとえそれを貴方が望んでも
しおりを挟むカラン…と何かが落ちる音がしました。
鞘、です。鞘は軽いのです。軽い木材に皮を張り、装飾を施した鞘。
何故、鞘、が……
瞬きの間にケイレブとセオドア様が剣を交えておりました。
「セオドア!!」
「……ああ、邪魔するなケイレブ。これで全部終わる」
ギリギリと刃の擦れ合う不快な音。
「屑が塵を掃除して終わるんだ。とても良いことだろう?」
「駄目だ。これは…違う。こんな終わりは駄目だ…!」
ケイレブに庇われるのはファーガス王……いえ、先程退位をいたしましたので王ではありません。その先王に刃を向けるのはセオドア様。
ああ、知っていました。セオドア様がこうされることは。
もう、王家の血を引いているものはわたくしだけ。そしてセオドア様は、亡国の王子なのです。わたくしが女王になれば、セオドア様は障害にしかなりません。今回のことでセオドア様が先王ファーガスの子ではなく、亡国の王子だということは広く知られてしまいました。
神の怒りを受けて滅びたとされるソルライト王国。
信仰に厚いルネライトの貴族が、国民たちが、この国に呪いを振り撒くかもしれない亡国の王子を、女王の夫として認めるでしょうか。ケイレブが『シェパード公爵』でなければ、わたくしはすぐさま次の夫をあてがわれていたことでしょう。
わたくしは諦めません。
なんのために城を、貴族を掌中に収めたと思っているのです。なんのために子を産んだと思っているのです。こんな結末は認めません。
「セディー!!」
認めません。
セオドア様は死ぬおつもりです。先王ファーガスを殺して、自分も自害するおつもりなのです。
認めません。セディー、たとえそれを貴方が望んでも。
トッ
そう軽い音がして、
先王ファーガスが信じられない、とでも言うように背後を振り返りました。
「………オ、デット……?…そなた…………!?」
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