側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや

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【悪役令嬢との茶会】前編

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その取材の申し込みはあっさりと叶った。

大人気小説『月明かりの恋』のライバル令嬢のモデルとされる ーーー ここでは名を伏せよう。仮にE嬢とする。彼女への取材のために僕は重苦しい門をくぐる。刺すような門番の、護衛の、メイド達の視線。通されたのは無機質な事務室でも牢屋でもなく、陽光と緑あふれる小さな茶室ティールームだった。


「はじめまして、オブライエン様。Eと申します」


天使のような微笑み、女神のような美貌、歌姫のような声。


面白い。こんな女が激昂し、取り乱す姿を見たい。


僕は込み上げる笑いを隠しもせずに、彼女が『悪役令嬢』のモデルになっていると噂される本を差し出す。さあ、怒り狂え。無礼だと。その手にした扇で打つが良い。

……だが。

鬼の形相で花瓶を振り上げたのは侍女で、殺気を放ち剣を抜きかけたのは護衛。E嬢は微笑んだまま。……いや、違う。僕の差し出した本をキラキラした目で見ていたのだ。


「この本はいただけるの?あの…少しだけ……今読んでよろしくて?」

「えっ……ア、ハイ…」

「まあ、ありがとう!わたくし、恋愛小説が大好きですの」

「はあ……」


なんだ?これは。E嬢、アンタ貶されたんだぞ?馬鹿にされてるんだぞ?この本の悪役は、アンタの悪行がモデルなんだぞ?


明らかな違和感。


嬉しそうに。目をキラキラさせて頁を捲る白い指。ああ、まさか。まさか、そんな。

僕は夢中になって読み進めるE嬢に幾つかの質問をする。その結果分かったのは、E嬢は学園に通っておらず、取り巻きもいない。派閥は必要ないとやんごとなき方から言われ、友人らしい友人もいない。友人がいない、と自分で言って流石にまずいと思ったのか、E嬢は思い出したように「聖王国の聖女と文通している」と明かした。

聖王国の聖女プリムローズ。御歳おんとし86歳の厳格な修道女だ。嘘を嫌い、罪を憎み、いささか鼻につくほどの『正義』を愛する聖女と ーーー 文通!?

信じられない思いで侍女を、護衛を見る。侍女は何故か誇らしげに、護衛は苦笑しながら頷いた。


なんということだ。身分を振りかざす傲慢な醜女を揶揄ってやろうと乗り込んだ僕は、ただの道化だったということか!?

心臓がドクドクとうるさい。手を揉んで汗を誤魔化しながら次の取材を申し込む。断られないよう、記事を掲載する際はE嬢の父親に確認してもらうという条件を出して。




王子と下級貴族の令嬢の恋物語『月明かりの恋』。ただの娯楽小説のはずなのに、僕には何か大きな力が働いているように感じたのだ。













記事  ーーー モーリス・オブライエン






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