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両陛下と密談でございます
しおりを挟むわたくしとケイレブは窓のない小さな部屋に通されました。あらまあ。ここは国家レベルの要人との密談する部屋ではございませんか。
茶器と茶菓子を置いて、侍女も近衛も下がってしまいました。カップは4つ。王妃殿下もいらっしゃるのでしょうね。わたくしはまず、自分とケイレブの紅茶を注ぎます。
「あ…いや、エマ?そんなことは俺が……」
「あら、いいのよ?子供の頃のおままごとを思い出すわ」
「ああ…エマがよくやってた『あくやくれいじょう』ごっこか…」
そう。悪役令嬢はこうやってお茶を淹れてあげるふりをして、ヒロインに熱い紅茶を浴びせるのです!……できませんでしたけどね?わたくしには前世の記憶がある。『贈り人』と呼ばれる転生者は、それはそれは国家レベルで大切にされるのです。ケイレブと思い出話に花を咲かせていると、両陛下がお越しになった。わたくしたちは最上級の礼をしてお迎えする。
「ああ、よい。楽にせよ」
「は!」
「ありがとうぞんじます陛下」
顔を上げた先の両陛下はいつも通りで、わたくしは少しだけ安堵いたしました。
「さて、セオドアのことであるが」
陛下のお話はわたくしの予想通りでした。そして、半年後の成婚の儀の日取りはシャーロットと呼ばれた令嬢に譲る事になりました。あら?でも大丈夫でしょうか?西の離宮を予定しておりましたが、彼女は男爵家の娘さんでございましょう?わたくしの結婚資金はお父様が15年かけて貯めたものですが、それほどまでに富豪なのでしょうか?
「ポーター男爵令嬢とセオドアの成婚の儀は離宮でなく大神殿で行う」
「さようでございますか」
大神殿は昔は格式が高かった会場だ。今は少しの喜捨で信者ならば誰でも式を挙げられるし、平民や下級貴族も招待状なしに参列できる。妥当な挙式ですわね。
「側妃であるエマの挙式はその一月後を予定しておる」
「かしこまりました」
良かった。成婚の儀の日にちだけでなく、場所やウェディングドレスを譲れ、などと言われなくて。お父様が発狂してしまうところだったわ。
「エマ」
王妃様がわたくしの手を握った。
「わたくしの娘になるのは、エマ、あなただけだとわたくしは思っております。ああ、エマ、お願いよ」
王妃様の宝石瞳がきらりと光る。
「わたくしの孫を産んでちょうだい。宝石瞳の、王の瞳の子供を」
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