【異世界大量転生5終】辺境伯次男は鬱展開を全力で回避する

閑話:王太子アルフォンス(エグバード改名)

『もにたぁ』の中でミュゲが幸せそうに笑っていた。頬を染めて。目を潤ませて。見たこともないような顔で。

なぜこんなことになってしまったのだろう。

私はミュゲを手放す気など無かった。7歳の頃からの婚約者だ。美しく賢いミュゲは、幼い頃は花の精のように可憐だった。けれどそんなミュゲも、成長するにつれ『大人の女』の体付きになっていく。

閨教育で見た、あの醜い女と同じブヨブヨとした体に。

そんな時だ。従姉妹のマーガレットと親しくなったのは。

私とマーガレットが愛し合うのに時間はかからなかった。妖精のように愛らしいマーガレットは時に我儘に、時に淫らに私を翻弄した。

けれど、マーガレットは結婚した。政略結婚だった。一向に妻を娶らぬ当主。その当主の弟に嫁いだ。ナイトレイの次期当主の座はマーガレットの産んだ子になるのだろう。

許せない。

あんな平民の腹から産まれた、聖魔法しか取り柄のない男など。

私はあらゆる手を使い、グレン・ナイトレイとマーガレットを引き離した。マーガレットとグレン・ナイトレイは閨を共にしておらず、初夜さえまだだった。このままグレン・ナイトレイが死ねば、私の子供がナイトレイの次期当主だ。

しかし、グレン・ナイトレイという男はナイトレイ家の血を濃く引いた、恐ろしいほどに狡猾な男だった。

私とマーガレットは幸せの絶頂から地獄に叩き落とされた。

グレン・ナイトレイの策略によって、私は王太子でありながら独立したナイトレイに干渉できなくなった。ならば…ミュゲとの結婚を早めてその子供がドーン国王になるしかない。

そのミュゲもナイトレイに奪われることになる。

あの『もにたぁ』の中で、ミュゲの隣で微笑んでいた汚らしい娼婦の女だ。

私はミュゲを手放す気など無かったのだ！

ミュゲの産んだ姫はきっと、幼いあの日のミュゲのように愛らしいだろう。私はもう子供ではない。マーガレットとしたように、子を孕ませる愛し方をしてやれる。

ああ、ミュゲ…。

どうしてこんなことに。

……そうだ。間違いだったのだ。


マーガレットを抱いたことからが間違いだったのだ。


やりなおそう。

マーガレットさえいなければ、ミュゲは戻ってくるだろう。

そうだ。ミュゲは私を愛していた。私たちは引き裂かれたのだ。










マーガレットさえ。グレイスさえ居なくなれば。ミュゲは。私の平穏な世界は戻ってくる。