【異世界大量転生5終】辺境伯次男は鬱展開を全力で回避する

閑話:ドーン国宰相

「お断りするわぁ」


積み上げられた金貨の山に目もくれず、女は笑った。女は魔女クリムゾン。建国以前からこの国に住み着いていた『魔女』と呼ばれるばけものだ。


「何故！？これでも対価が足りぬと！？」

「足りないわねぇ？だってコレぇ、混ぜてあるじゃなぁい？いつからドーン金貨はこぉんなに質が落ちたのかしらぁ？」

「………っ」


我が国の財政は逼迫していた。良い品を比較的安く売ってくれていたレイモンド商会の撤退が引き金だ。代わりに王都や王宮に根を下ろしたのはマーキュリー商会。レイモンド商会長の兄が経営する商会だ。マーキュリー商会の品物は安かろう悪かろうか、非常に高級かのどちらかだ。しかもその高級品は、以前にレイモンド商会が店に並べていた品より数段落ちる。

金貨が必要だった。

王はあの女の甘言に乗せられて、王国金貨に混ぜ物をしたのだ。

それを見破るとは……。

いいや、『鑑定スキル』を持っているものならそれは当たり前のことなのだ。それをあの愚王は……！


「『魔女』の対価は『血』の対価なのぉ、お分かりぃ？」


積み上げられた金貨は不自然にギラギラ光っていた。


「今回の王太子の部位欠損なら、『無垢なる乙女』が『自ら望んで犠牲になり』、『惨たらしい死を迎え』でもしないと叶えられないことよぉ？それをこぉんな混ぜ物でぇ？」


そう、彼女は『魔女』。聖女でも神でもない。聖人のように惜しみなく人々を癒していたグレン・ナイトレイはもう使えないのだ。


称号の剥奪。それがこんな形で返ってくるとは…！


「………ふふ…いいわぁ、やってあげるぅ」

「そ…それでは…！！」

「ただし、この混ぜ物と少年を1人頂くわぁ」


少年…？愛玩奴隷か。それなら…


「チャールズ・キャクストン、5歳。この子供を材料として寄越しなさい」


魔女が今までのふざけたような間延びした声色から変わる。私は震えた。それは……その、子供は………


「そう。アンタの娘にやっとで授かった、たったひとりの孫息子よ」









どうするの？と ーーー 魔女が嗤った。