【異世界大量転生5終】辺境伯次男は鬱展開を全力で回避する

閑話:令嬢ジュゼッタ1

王都で話題の異色の官能小説『聖淫者グレン』。兄の部屋でその小説を見つけてしまったわたくしは堕ちた。そう、まさに堕ちたのだ。グレン様に。

わたくしはそこが兄の部屋だと忘れて、その聖書を食い入るように読んだ。

愛する妻に裏切られ、グレン様は妻と王太子に復讐を誓う。初めは実の兄を陥落させ、次に幼馴染みの商会長。そして、弟のように可愛がっていた勇者。差し出せるのは自分自身と、グレン様は3人と婚約を結び、純潔を散らす。

その描写が！！ああ！！初めての痛みと快楽に咽び泣く、美しい聖者。複数人で犯され、汚されても彼は美しく、次第に婚約者3人はグレン様の寵を巡って争い合う。そんな諍いを楽しむグレン様を窘める従者は、グレン様に逆レイプされてしまうのだ……以下次号！！

っく…！！アアアアアアアアアア！！神！！作者の『えむ淫えー』様こそ神！！！しかもこの話はモデルがいる。っていうか実名で妄想を書いている。良いのかしら？良いわね！『聖書』なのですものッ！！

わたくしが聖書を手に震えていると、兄が部屋に帰ってきた。そして、わたくしの手にある聖書を見て真っ青になった。


「た…頼む！！母様たちには内緒に！！」


なんてことでしょう！兄は…兄は……この素晴らしさをわたくしに隠して楽しんでいたのです！！！


「いいのです、お兄様」

「ジュゼッタ…」

「大丈夫、わたくしは何があってもお兄様の味方ですわ。そうだ、お兄様！ナイトレイに遊びに行きましょう？わたくし、独立のお祭りに行きたいですわ」

「な…！お前、俺を嫌悪するどころか、俺のために…！！」


わたくしは仲間を得た。成績優秀で品行方正。剣の腕前も学年トップ。将来は第3王子の側近だと囁かれている兄を。

兄とナイトレイの独立の祭りに行きたいというと、お母様は「良よいでしょう、父上もそろそろ孫たちの顔を見たいでしょうから行ってらっしゃい」と、ナイトレイのお爺様のお家へ連絡してくださいました。そう、お母様の実家はナイトレイの分家なのです。

グレン様の絵姿を買ってきて頂戴、とお小遣いまでくださいました。ここにも仲間が！！え？お父様？空気です、空気。


そしてグレン様たちの結婚パレード。

最高でした！！

グレン様はあの小説のように影のある淫靡な美青年ではなく、大天使という二つ名も頷ける絶世の美貌に爽やかな笑顔の、まさしく『天使』でした。グレン様のためならば、と戸籍上の『妻』になったお相手の伴侶様たちも、もう！もう！もう！！これが全員違うタイプの美形でわたくしの心臓は破裂寸前です。グレン様を見つめる、蕩けるような顔と、イチャイチャ…！！さりげなく腰を抱いたり頬にキスをする振りで唇だったり…！！

周りは『仲間』でいっぱいでした。わたくしは『グレン様ふぁんくらぶ』という秘密の会員制倶楽部に参加しました。会員番号801です。あら、いいわね！と周りのお嬢さま方から言われました。801とは、遠い国で薔薇の殿方たち、という意味だそうです。

会員限定の絵姿も買え、わたくしと兄は帰路につきました。馬車の中で、兄がポツリと言いました。



「ジュゼッタ……俺、ナイトレイの騎士になりたい。グレン様のお役に立ちたい…！」

「まあ…お兄様！」






ええ！ええ！ジュゼッタはついていきますわ、お兄様！！