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閑話:「魔女が笑った」《ガヴェイン王子視点》※残酷な表現があります
しおりを挟むどうしてこんなことに…。
全身が灼ける。黒いなにかが這いずり回った場所が焼け爛れ、自己修復が追い付かない…!!
動けない!何故動けないんだ!?私は到達者だ!全異常状態無効の到達者なんだ!拘束など神々でも容易ではない!!なのに……!
なにかはよく見ると、黒い腕に見えた。華奢な……女の腕。腰から下はもう真っ黒で見えないが、目を凝らすとキラリと何かが光る。
ーーー ピアス、だ。
……いや、何故それをピアスだと私は思ってしまったのか。
いつか見たことがあるからだ。赤毛の女の耳を慎ましく飾る小さな緑柱石。
下半身を拘束し続ける黒い塊が、ニヤリと笑みの形に裂けた。
「……………!!!」
思い出した。思い……出して、しまった。
これは死霊だ。
あの時。
たまには赤毛もいいな、と拐わせた男爵家の女だった。
閉じ込めて、犯して…。飽きたから払い下げた。
側近たちに払い下げた女達は地下室で飼われる。何度か地下でも遊んだが、酷い臭いで……。
「ごめんなさいね、王子?だって…こういう『弱くてよく吠えて、頑固なまでに諦めない、それでいてちょっと頭が悪そうで健気な女』を演じた方が盛り上がるってアイリちゃんが言うんですもの」
ハンカチーフで額の血を拭いながら白い髪の女が笑う。
この女は……誰だ。
少なくとも私たちが罰を与えてやった悪役令嬢リリアナじゃない。
「うふ…。ガヴェイン王子?わたくし実は、もう貴方様たちのことは恨んでなどいませんのよ?むしろお礼を言いたいですわ。だって、わたくし、今とっても幸せですの。こうなってしまってからお兄さまはわたくしを好いて下さった。生涯お仕えする我が君にも出逢えました。師匠にも、この世界がこんなにも美しいことを教わりました。本当にありがとう存じます」
幸せそうに女は言う。
おっとりと。まるで茶会で天気の話でもする令嬢のように。
「…な……ら………!!」
この縛を解け!!
そう叫ぼうとするが、喉に…指が……絡みつく…!
もういいだろう!?もう、十分だろう!
私は王子なんだ!帝国唯一の超越者で、加護は主神デウスだ!私は選ばれた者なのだ。そう言われて育ってきた。
ちょっと慢心した主人公が負けてしまう物語。なあ?そうなんだろう?
「ごめんなさい?もうお約束してしまいましたの。皆さまに、王子を差し上げる、と」
ーーー 皆さま?誰のことを言っている。誰……。
そこで私は気付いてしまった。
足元で、黒いなにかが、一斉に、 ーーー 笑っていた。
「マリエさま」
リリアナの姿をした女は耳許で囁いた。その間にも、私の腕は、脚は、身体中は焼け爛れていく。
「ソレイユさま、アニスさま」
名を呼ぶ度に、黒いモノたちに色が付いていく
襤褸を纏った、全身血塗れで、顔も手も腫れあがり、火傷の跡も生々しい醜い女たち。
「デイジーさま、メリーさま、ダリアさま…」
情けを乞うように、女たちの腕が這いずり回る。血のように真っ赤に灼けた腕に肉が貼り付いて剥がされ、炭化して擦られ、崩れ、私は悲鳴をあげる。
「 ーーー グレイスさま」
やめろやめろやめろ!!私は王子だ!王子なんだ!!冒険王子!なにをしても許される帝国の王子だ!!
「お待たせしてしまって申し訳ございませんでした。さあ、どうぞ?差し上げますわ《シチニンミサキ》さま。灰も残さずお召し上がりくださいな」
リリアナの姿をしたバケモノの号令で、女たちの指がズブリと体内に沈む。
腹に、目に、口に、肛門に。けたたましいまでの哄笑が木霊する。
だが……死ねない。死ねない死ねない死ねないもう死なせやめろやめろやめろやめろやめろもうやめてくれやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめぎゃがぐああああああああいだいいいだいやめやめやめろああああああいだいいだいやめでぐあああああひぁぎゃああやめろあああやめぎゃあああああああああ死なせあああああやめてぐが殺してあああああぎゃっあああごろぜえええああああああひぎゃああやめ…っ!!
「まあ、皆さまったら。嬉しそう」
鈴を転がすような声で、魔女が笑った。
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※「殿下」と呼ばず「王子」と呼んだり、「申し訳ございません」と畏まらずに「ごめんなさいね」などと言うリリィの王子への言葉が所々雑なのは、すでにどうでも良い相手だからです。
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