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閑話:「私は犬になった」《ディーン視点》

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物心ついた時から漠然とした不安があった。

成長し、知識をつけるごとにそれは増す。

………怖い。

死ぬのが怖い。忘れられるのが怖い。怖い

怖い。

怖い。怖い。怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い………!!

もがいて、あがいて。

この国の現状を知った時に、子供ながらに絶望した。

これは……………死ぬ。

死ぬんだ。

弱い軍隊。甘い外交。事なかれ主義の王。

学園を卒業したら他国に……いや、入学前に留学…いやそれも甘い。いっそ今から………

そう考えを巡らせていたとこだった。



第二王子と出会ったのは。



王家の汚点とまで言われた第二王子は、実際に会って話をすれば驚くほど聡明で快活な王子だった。

そして、この国の現状をよく把握していた。

子供ながらに武芸に秀で、魔法に精通していた。

この王子ならば、私のこの恐怖を払拭してくれるのではないだろうか。

そうは思ったが、何しろ接点がない。

ならば学園でお近づきに…と目論むも、自由が売りのはずだった学園の校則が変わり、貴族のルールと同じ仕様になっていて私からは声をお掛けすることもできない!

しかも第二王子の周りはヴィオレッタ姫や騎士隊長の息子たちでガッチリと固められ、王子自身も学園で交友は持たない方針に見える。

お声をかけていただけるように、周りでウロウロチラチラしてみるが、私のようにお声掛けを待っている者があまりに多くて諦めた。

だが不思議なもので、諦めた途端にお声が掛かる。

たった一度しかお会いしたことのなかった私を、王子は覚えてくださっていた。

私は王子の傍に侍ることを許される。 ーーー ヴィオレッタ姫に。

そう。王子の取り巻きの選別はヴィオレッタ姫の采配だったのだ。

「ディーレオ……デュフフ…」

「やめい」

謎の呪文を口にしながら頬を薔薇色に染めるヴィオレッタ姫。無表情でヴィオレッタ姫の頭に手刀を落とす第二王子。

ヴィオレッタ姫が痛がったりしていないので、ただのじゃれ合いだとわかる。

王子 ーーー レオンハルト様と騎士隊長の息子たち ーーー ミルヒーとグランツとともに軍部の訓練や魔物討伐にも連れて行って頂けるようになった。

私には剣の腕も魔法の才能もないが、レオンハルト様は「君の作戦戦略はとても参考になるし、統率能力は素晴らしいものがある」と褒めていただいた。

この高揚感…!

もう何も怖くなかった。

私は死ぬのが怖かったんじゃない。

生まれてきた意味が全くないことが怖かったのだ。

レオンハルト様に仕えたい。たとえそれが死に繋がるとしても。

そして、既に「俺の犬」と言われている軍人たちが羨ましい。

「私も貴方の犬にしてください」

そう言うと、レオンハルト様は少し驚いたように片眉を上げて私を見た。

「……んん~、そうだな。俺は愛玩犬はいらない。ちゃんと狩りのできる猟犬になれるか?」

「もちろんです」

「……そうか。なら、行くぞ」

レオンハルト様はニィッと笑った。高貴な血筋らしくなく、獰猛で魅力的な笑みだ。




私は犬になった。









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