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始まりと終わり
85 忘れていたのはこれだったのか(ノア視点)
しおりを挟むその頃の俺が何をしていたかっていうと、父様に膝枕しながらお話ししていた。シル母さんはニコニコ笑ってるし、デル姉さんはなぜか鼻血を押さえながら目を潤ませている。
ああ、うん。だって出発の準備って言っても、持っていくものってほとんどない。お布団とかお茶碗とか…って思ったけど、向こうでもう《常盤》が準備してるんだって。孫の世話を焼きたい爺ィみたいなもんだから、ごっこ遊びに付き合ってやれと言うのは父様。
孫とかそういうのはピンとこないけど、あんまりたくさん物を持っていくのも父様と《奈落》の負担になるかもしれない。
持っていくものはみんなだけでいい。
誰一人欠けることなく連れて行く。
この世界に来て、辛いことだけじゃなかった。アレクに引き取ってもらって、『家族』ができて。だから俺は、その優しいものだけを持って行く。
それはとても残酷で我儘なことだ。それ以外は全部捨てて行くということなのだから。
「……さて、そろそろ解いていいかな」
「…父様?」
父様が笑う。
「お前の感覚を鈍くしたのは俺の遊びでもあるんだけど、レストがさあ…」
「レスト?」
なに、を…言って……?
「レストがアレが大嫌いだって言って、俺の中で荒れ狂うんだよ。お前があいつらのことで思い悩んで過ごすなんて許されないって。マリベルの弟は自分の弟みたいに思ってんのかな?それと自分の境遇と重ねたのかな?…いやあ、さすが元騎士。感情が封印されてなきゃ結構苛烈でさあ。今すぐブチ殺すって荒れるの抑えるの苦労したわ」
するりと父様の手が俺の頬を撫でる。
「もういいよ、思い出せ」
「……………っ」
パキンと何かが割れた音がする。
……ああ………。
ああ、これか。
俺が忘れていたのは。
「………………」
思った以上に俺は冷静だった。だって………
その時だ。
木々を掻き分けて、ヴァンダル王太子クリストファーが現れたのは。
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