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楽園と崩壊と
51 遠い国へと行く前に(クリストファー視点)
しおりを挟む王宮に神官長が訪ねてきた。
「帰ることのできぬ遠い国へと行く前にお伝えしておかねばならぬ事がございましてな」
久しぶりに会った神官長は、老人のように痩せ細り、顔はどす黒く、艶のない白髪頭になっていた。神官長はまだ50にもなっていないはずだぞ?『帰ることのできぬ遠い国』?一瞬、この男も亡命するつもりかと思ったが、そうではないらしい。
亡命は ーーー 、もう、できない…。
ヴァンダル王国はすでに近隣諸国に包囲されている。辛うじて食料は絶たれていないようだが、ヴァンダルへの出入国はできない。亡命しようとした者たちは、ペトレルラ先代公爵を皮切りに全員磔にされた。降り積もる雪の中、それは雪柱のように林立していった。
隣国たちは ーーー いいや、世界はこのヴァンダルを甚振り抜くことにしたのだ。
「クリストファー殿下」
神官長の声で思考の海から現実へと戻される。
「……これは、私が墓まで持って行く筈であった真実でございます」
何か重要な話だろうか。私は人払いをする。
部屋に私と神官長の二人きりになって、神官長は話し始めた。
「……陛下は………ヴァンダル国王マクシミリアン二世陛下は、正当なる女神の血筋ではございません」
…………は?
「……とうとうおかしくなったか、神官長」
「いいえ、いいえ。クリストファー殿下。貴方様やマクシミリアン陛下の瞳の色を思い出しながらよく聞いてください。女神の瞳には、他の色彩は混じらないのでございます。濃淡はあれど、青や赤が混じることはございません」
「……なに、を…世迷言を………」
「……その文献の一部を改竄したのが先代神官長 ーーー 私の師でございます。今際の際の……遺言でございました」
「嘘だ!!!よくもそのような出鱈目を…!!」
「……信じて頂かなくて結構でございます。どの道……もう、この国は終わりです。世界中から包囲され、システムの動力源であるマレビトは失われ、女神は ーーー 堕ちた。そう、アレは最初から女神などではなかった!」
「王族に対してよくもそのような侮辱を!!」
「天罰なのでございます!神がもの言わぬことを良い事に、女神を騙る魔女を崇め、偽物を王と偽り、神の子を攫い、魔女に喰らわせ虐め抜き、挙句に死ねと追い出した罰…!生きていくために、棄民や平民、貴族たちを攫って生贄にした罰なのでございます!殿下、何卒神殿にお越しいただき懺悔を…!偽りの女神にではなく、神に懺悔を!!私はもう長くはありません…!システムにすべてを食い尽くされました。臓腑ももう殆どが機能しておりません。ですが、私は………」
「だっ……黙れェェェェェ!!!」
理解できない雑音を喚き続ける狂人を斬り捨てる。……思ったほど、血は出なかった。
ああ、なんだ…?この狂人は…なに、を……言っていた…?教会…そう、教会だ。教会に行って……なに、を……するんだ…………?
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