52 / 118
霊峰オデッサにて
40 ゲーム開始(クリストファー視点)
しおりを挟む緊急に招集された議会は混乱を極めていた。
追放されたノア・ヴォルテッラが生きてオデッサ霊峰に辿り着いた。
生きて……。
そこで私は初めて知る。
オデッサという場所は、人間が生きて辿り着ける場所ではないということを。
気温は氷点下100度以下。耐寒の付与魔法すらされていない粗末な護送用馬車で、騎士でもない棄民の御者で普通は生きて旅をするなど不可能なのだと。
そんな……。
ドロシーはオデッサを「雪の美しい山」と言った。彼女も知らなかったというのか。私と彼女は、知らずにノア・ヴォルテッラを処刑していたのか。
……いいや、処刑ではない。ノア・ヴォルテッラは生きている。生きて……辿り着いたのだ。
そして、奇跡を起こした。
今、オデッサ霊峰は中腹に鮮やかな神殿が在り、『花』が咲き乱れ緑豊かな場所となっている。
議題は『ノア・ヴォルテッラをどういう扱いにするのか』から、ドロシーの父親である先代ペトレルラ公爵の失態の糾弾になっている。そして、今回の【聖女】の損失は私が聖女を繋ぎ止めておけなかったからだ、と…。
私はノア・ヴォルテッラの婚約者ではなかったのだぞ!?それどころか友人でもない。どうやって繋ぎ止めておけというのだ!?
ノア・ヴォルテッラは王命により霊峰オデッサへ向かい、奇跡を起こした。
そう公表すると決まったその時だった。
笑い声がした。
ゾクゾクと耳を刺激する、美しい声だ。
「うちの子を攫って虐めて捨てた挙句にもう一回拾うのかー。すげえな《ちいさきもの》って」
………誰だ。この、男、は……。
いいや、男?生物としても疑問だ。それほど美しいモノだった。
薄紅色の髪と純白の衣装。その深い緑の瞳は……どこかで………。
その後ろに控えるようにして立っているのは……
「……!お、…叔父、上…!!」
アレクシス叔父上だった。どうしてここに!?叔父上が、この男を招き入れたというのか!?叔父上は、ノア・ヴォルテッラを追ってオデッサに………
「よう、王族貴族の皆様お久しゅう」
アレクシス叔父上は、何事もなかったかのように笑った。
「……さて、ヴァンダルとかいう国の蛆虫ども」
薄紅色の髪の男がニイッと笑った瞬間だった。全身の毛が逆立って心臓を鷲掴みにされたような感覚。目の前がチカチカと黒と赤で点滅して……息が…できな………
「お前たちがノアと呼ぶあの子は俺の息子だ。良くもまあ遊んでくれたよな?本来なら即潰すんだけど……まあぶっちゃけお前ら不味いんだわ。食うに値しない。だから、ゲームをしようか」
急激に圧力から解放される。
そのまま机に倒れ込む者。椅子から転げ落ちて嘔吐する者。咳き込み、未だ苦しむ者。部屋の隅に控えていた筈の騎士の鎧だけがガシャンと崩れ落ち、血溜まりが広がる。
「……ヒッ…!!ひぃ…!」
「さあそこかしこで聞いてるヴァンダル国以外の間諜の諸君。大急ぎで帰って伝えろ。ゲームの始まりだ。俺を楽しませろ。期間はまあ…400日くらいか?うちの子とアレクシスの結婚式が終わったら、この世界を閉じる。世界を終わらせる。そのために俺は天上の世界から来た。俺を楽しませてくれたニンゲンは連れて行ってやってもいい。 ーーー わかるか?」
なに、を……言っているのだ。この悪魔は……!
「俺はヴァンダル国とかいうこの蛆虫どもに腹を立てている。ああ、直ぐに滅ぼしたら楽しめないぞ?よーく考えろよ?お前たちの行動をゆっくり観察させてもらおうじゃないか」
127
お気に入りに追加
2,344
あなたにおすすめの小説
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください
東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。
突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。
貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。
お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。
やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる