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霊峰へ
30 雪が降る(クリストファー視点)
しおりを挟む目の前には一面の銀世界が広がる。
銀世界と言えば聞こえはいいが、要は雪が降り積もっている状態だ。常春と言われたこの王都では数百年ぶりの異常気象だそうだ。
寒い。
王城では、今まで飾りでしかなかった暖炉に火が入れられた。それでも深々と冷える。城下の貧しい者から死者も出ているらしい。体温が下がることで死に至る病だ。
せめてもの救いは、路上で生活する棄民が他所の国へ行っていることだ。教会が移民させた貧しい者たち。飢えることも寒さに震えることもないのだから、彼らは貧しい平民より幸せだったのかもしれない。
女神による【聖女】召喚は未だに難航している。
議会では、【聖女】ノアを追放するのが早過ぎたのだと、ペトレルラ先代公爵が槍玉に挙げられている。
ノア・ヴォルテッラ。
もう生きてはいないだろう。あのような【聖女】でもこの国には必要だったのだろうが、男でありながら何人もの男に抱かれた者など……穢らわしい!せめて、ああ、そうだ。せめて、あの淫売聖女がもう少し自重してくれていたら……。
いや、考えまい。
ノア・ヴォルテッラが自重したところで何が変わるのか。誰の肌も知らぬ純潔だとでも言えば好意も持っただろうが…。
雪が ーーー 降り積もる。
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