【異世界大量転生4】役に立たない淫売聖女(♂)は極寒の地に追放されました。※なお、英雄王弟は即追いかけて行った模様です。

とうや

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22 王の誤算(ヴァンダル国王視点)

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ああ、こんな筈ではなかった。

私は山積みになった書類の前で頭を抱えた。



アレクシスが死んだ。



あの傲慢で乱暴なアレクシスが、死んだ。

アレクシスは15歳下の弟だ。

正妃のたくさんの愛人の中の誰の子だか……と噂されていた弟は、父王より正妃より、誰よりも王家の血を濃く受け継いで生まれてきた。もう少し瞳の色が深ければ、まごうことなき『女神の瞳』だった、と当時の神官長は惜しんだそうだ。

美しく、傲慢で、誰よりも王座に相応しかったアレクシス。本人は知らないだろうが、彼が王座につくあと一歩まで正妃がお膳立てをしていた。

だが正妃は暗殺された。

アレクシスはあっさりと王位継承権を捨て、軍属になった。

アレクシスにとって王位などどうでも良かったのだ。

ヴァンダル王となった私はアレクシスを戦争の最前線へ送った。


死ね。


そう願いながら。

ああ、私は悪くない。アレが生きているだけでこの国は戦禍に見舞われる。

死ね。死ね。死ね。

そう思いながら死地へと送った弟は、必ず戦果を上げて帰ってきた。

そのうちに、あの傲岸不遜なアレクシスにも弱点があることに気付く。


【聖女】だった。


聖女を私の息子に嫁がせよう。男同士だ。もちろん形式だけのものだ。そう思い、聖女ノアとクリストファーの婚約を…と命じると、アレクシスは激しく拒絶した。


【聖女】ノア。


あの美しい子供だ。

なんだ。アレクシスは小児性愛者だったのだ。

私はあの完全無欠の男の弱点を掴んだ。

ちらりと脳裏を掠めたのは、『次の王は必ず聖女に恋をする』という信憑性のない言い伝えだった ーーー 。



アレクシスは私に異を唱えぬようになった。

あの傲岸不遜なアレクシスが、私の思うままになったのだ。


国土が広がる。


いつしか私は、アレクシスはただの道具だと思うようになってきた。

私の意のままに動く、美しい暴力装置。

血の繋がった弟であるからこそ憎くて憎くて堪らなかったアレクシスが、やっとただの『臣下』になったのだ。


だから、忘れていたのだ。


アレクシスにとって、聖女ノアは触れてはいけない逆鱗なのだと。


「小児性愛者には新しい美少年でも与えておけば良いのでは?」


そう笑ったペトレルラ先代公爵の言葉に頷いたりしなければ ーーー !





アレクシスは失踪した。


いや、追放された聖女ノアを追ってオデッサへと向かったのだ。


聖女もアレクシスも、霊峰オデッサまでは行き着けなかっただろう。


死ね。死ね。死ね。


そういつも思いながら戦場に送り出した。



それがまさか、こんな形で反動が来るなどと…!!








手元の書類は世界中に散る間諜の報告書だ。

我がヴァンダル王国は今、世界中の目に晒されている。

アレクシスを使傍若無人に振る舞ってきたツケが回ってきたのだ。

アレクシスめ、まさか強国ベローナに勝利する一歩手前で梯子を外すなど…!!


これがあの男なりの復讐だったのか。


世界中を引っ掻き回して。全てが纏まる直前で手を離して。





さあどうするんだ、とあの世で笑っているんだろう。














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