【7人の魔王5】魔王様の食卓 〜今日も嫁(おれ)の飯がマズいらしいが、愛があるなら乗り越え(あきらめ)てくれ〜

【勇者視点】(1)

暗い暗い空間を必死で駆け抜ける。背後にはあのバケモノの声。


「あらあら？そっちじゃないわ！んー、違うって！もう少し右よ！」


なんなんだ一体！？魔族がこんなにヤバいなんて聞いてない！ワイバーンの群れと戦った時も、迷宮のボスに挑んだ時も。仲間がいればなにも怖くなかった。いつでも上手くやってきた。どんな難敵も踏み越えて順調にレベルアップしてきた。それがどうだ。

最初のあの真っ黒な逆結界で暗殺者と女騎士がやられ、逃げ込んだ魔王城で魔道士と剣姫が瞬殺された。今はたった一人残った仲間 ーーー 聖女の手を引いてひたすら走る。

彼女を失うわけにはいかない。

傷を癒やし疲れを取り去り、解毒などのデバフの解除や常時回復や攻撃力倍増などのバフ、攻撃無効化空間を作り出す結界。聖女というものは前世で言うと回復・補助特化職だ。転生したこの異世界は回復職はとても少ない。国家間で奪い合うほどに。剣姫や女騎士などいくらでも代わりはいる。だが聖女を失うわけにはいかない。なんのためにこのケバい若作りのロリババアを抱いてやったと思ってるんだ。

走って、走って。急激に開けた場所に出た。前世の夏のような日差しが眩しい箱庭のような美しい場所。よく手入れされた緑の庭をぐるりと囲むように通路があり、真っ白なバードバスに真っ青な美しい小鳥がとまっている。ホウ…と聖女ヘザーが息を吐いた。


「……綺麗な場所…」


そうだ、綺麗すぎる。呑気すぎるヘザーに舌打ちをしたくなった。けれど……


「主よ、憐れみ給え。主よ、救い給え」


ビクリとヘザーの体が強張った。あの祈りだ。真っ黒な逆結界を作った、あの……


「主は仰いました。憐れなる神の駒は人にあらず。その手に剣を持ち討ち滅ぼせ。其れは邪悪なるもの。憐れなるもの。爾の手により討ち滅ぼされた魂は誠の輪廻に還えり、すべては清浄なる原初へと戻る。ああ、主は導きました。仰いました。その勇なる者、正しきものにあらず、その聖なる者、穢れなきものにあらず。さあ討ち滅ぼすがよい、我が使徒。我が娘。爾の手によりきよめられしたましい………」

「ダリア！！おやめなさいダリア！！」

「ヘザー…？」


火が着いたかのようにヘザーが叫ぶ。ダリア？誰だ？ヘザーの知り合いなのか！？


「ダリア！！何故生きていたのッ！？何故！？魔王の配下などに堕ちたの！？ダリア！！！」


廊下の先の大きな扉にヘザーが詰め寄る。


ギッ…ギギ……ギィィィ………


到底人の手では開けられないような巨大な扉が軋み、ひとりでに開いていく。その先には美しいステンドグラスの光を浴びた禍々しい漆黒の祭壇。その祭壇の前に、漆黒の修道服を纏った女が蹲っていた。


「主よ、お赦しください。わたくしは……」


女がゆっくりと立ち上がり、優雅に振り向く。俺の心臓がドクリと大きく脈打った。


「……ダリアッ！！お前…！」

「…………っ！！」







「主よ、わたくしをお救いください」