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【名もなき兵士視点】
しおりを挟む『主よ、天地の別れしまえよりあるからある主よ。ふるきもの。名伏しがたき我らがあるじ。この憐れなる者たちを灰に戻し、塵に返し、全てを捧げるために御方様の御力をお貸しください。ああ、我らが主よ。ふるきものよ。名状しがたきもの。我らがあるじ。讃えましょう。捧げましょう。奉りましょう。主よ、彼らを憐れみ給え、救い給え、この箱庭に封じられた憐れな残骸を救い給え、憐れみ給え。 ーーー 捧げる』
甘やかな若い娘の声で祝詞が紡がれた。凛として、切なく、全てを投げ出し縋ってしまいそうな優しい声。どこか禍々しい祝詞が途切れると激しい地震が襲った。
ーーー いや、地震ではない。
真っ黒な闇が後方から迫る。触れた者の肉が弾け飛んだ。
「………っ!?」
「ぎゃああぁぁぁあああ!?」
「ぁが…!ぎゃ!!」
「……っ!黒い……逆結界!?まさか!《聖女》か!?」
勇者が叫んだ。
「……っさがれ!!黒い霧に触れるな!!喰われるぞ!!」
「…きゃあ!?」
「そんなっ…!?嘘よ!こんな大規模結界有り得な……ぎゃっ!!」
「なぜ、《聖女》が…!?聖女は敬虔なる神の使徒ではないのか!?」
「やめろやめろああああやめてくれおれのうでがあしがあああああやめやめや…ひぎっ…」
『あっははははは!そうそう!その黒いのにミンチにされたくなかったらさっさと会場入りしてくださいねえ?協調性が問われる全員参加ですよお?ほらほらほらあ!がんばってえ!ダッシュですよお!』
祝詞の娘とは違う、弾むように元気な女の声が響く。なんだ!?なんなんだ!何か起こっている!?
「退避!!全軍魔王城へ突入しろお!!」
『憐れみ給え主よ憐れみ給えこの穢れた魂に主の御名において死と祝福を与え給え憐れみ給え憐れみ給え主よ彼らを憐れみ給え憐れみ給え憐れみ給え 』
混乱した兵たちは魔王城の狭い門へ殺到する。押し合い、圧し合い。倒れ伏して、戦うことなく味方に踏み殺され。後方では間に合わずに黒い霧に喰われていく味方たち。頭上からは不気味に同じ言葉を紡ぐ祝詞と、幼子のように無邪気に笑う女の声。
ーーー 地獄か、ここは!?
『主よ、彼らを憐れみ給え』
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