腐女神さまのいうとおり1〜亡国王子と死神辺境伯〜

【南の魔女視点】

数百年ぶりに『神子』が現れた。わたくしの長い魔女生では上位神、それも最高神デウス・オティオーススの愛し子は初めてではないだろうか。

場所は、遠い遠い北の果て。魔王領を通過すれば比較的近い北の魔王領隣接地。ああ、忌まわしい。魔王領があるだけで、わたくしが突き止めた『世界は雨粒の様な球体である』という事実が否定され続ける。

だがどんなに遠くとも。全世界に触れの出た最高神の『弟』様への謁見は為さねばならぬ。全ての国家が、部族が、デウス・オティオーススの神子アールツナイ様に、貢物を手に謁見を申し出る。

中央大陸は金銀財宝、西は織物、東は玻璃ガラス。ではわたくしの『南』は…？


「………！」


そうだ、良いものがある！中央には『毒』だと言われ、東西には『ただの不味い豆』と言われたアレが。

実を乾燥させ、砕いて意中の者と共に飲めば恋が実るという『惚れ薬』。香りは甘く、口に苦い『奇跡の秘薬』。

魔女であるわたくしは人前に出ることは禁じられている。ならば、と夫である王に無理を言い、侍女に扮して『弟』様に『奇跡の秘薬』を奉じた。

遠目で見ても美しい『弟』様。

大国の国家予算が吹き飛ぶ様な財宝を見てもつまらなさそうにしていた神子様。




その神子様は、『奇跡の秘薬』を手に取られ、叫んだのだ。