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【オストハウプトシュタット国王視点】
しおりを挟む先日使いに出した使者が首だけになって帰ってきた。これで六度目。6人の代表と300人以上の文官と護衛騎士、従者や小間使いたちが命を落とした事になる。
現在アレスゲーテは彼らが国境と定めた場所に結界が張られ、小動物や虫一匹通れなくなっている。関所は屈強なアレスゲーテ兵が固め、1年経った今、やっと許可された商人たちが別館で商談をする。もちろんその別館以外に勝手に動き回ることは禁じられ、こっそりと内部調査をしようと使い魔を放った商人は帰ってこなかった。
1年。そう、1年だ。私の、私とペルセポネの子供が攫われて1年が経った。
アレスゲーテで商談を取りまとめた商人たちを呼びつけて話をさせれば、商人たちは信じられないことを口にした。
『アレスゲーテの食事は神々の御食のように美味であり、馬車から覗いた街並みは驚くほど清潔で美しく、活気溢れるものだった』と。
おかしい。アレスゲーテは魔物が狩れるだけの田舎ではないか。商人が取引したという麺麭は、驚くほどに柔らかく、甘い匂いがした。さらに驚くことは、その甘く柔らかい麺麭は私の息子のアールツナイが考案したのだという。それを聞いた時の王妃の取り乱し様は酷いものだった。「だから認知してやるから早く戻せ」などと口汚く罵っていた。
ペルセポネも不思議な女だったが、まさかアールツナイは神子だったのだろうか。
アレスゲーテは年に一度、聖女を招いて結界を強化していた。魔王領との国境の結界だ。結界のおかげでアレスゲーテには強力な魔物や竜種といったものは侵入しなかった。だからすぐに神殿に泣きついてくるだろう。そう思っていたのに、神殿の使者も首になって帰ってきたらしい。
何が起こっているのか。じわりと得体の知れない不安が忍び寄ってくるようだ。
アレスゲーテの魔物素材や鉱石の入らなくなったオストハウプトシュタットはじわりと物価が上がっていった。物価が上がる。品薄になる。品質が悪くなる。じわじわと、何かが変わってきている。
何が起こっているのか。ペルセポネの子は、辛い思いをしていないだろうか。
七度目の使者は出さない。もう誰も行きたがらないだろう。
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