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不遇王子、見捨てる
しおりを挟む女神な一花姉が消えた後、なんだか危険物のようにそーっと運ばれた。無理もない。はっきり言って女神の(前世の)弟なんて爆弾だ。黒くて大きい人の名前はフィアツェン。フィアツェン・アイスツァプフェン・アレスゲーテと、なんだか呪文のような名前を教えてもらった。前世で言うとドイツ系?馴染みがなさすぎて一日経った後に思い出せって言われても思い出せないと思う。
俺の名前を聞かれたからアールツナイって今世の名前を教えておいた。今世の俺は滑舌が悪い。『あーりゅちゅにゃい』としか言えなくて、ちゃんとした名前を察してもらうのに苦労した。「一花姉」も『いちゅかにゃあ』みたいにしか聞こえなかったらしい。俺の言葉の不自由さは5歳くらいの時に一回舌を切り落とされたのと、この歳まであまり人と喋ったことがないからだ。不完全に短くなった舌は一花姉の女神パワー?みたいなのでなんとかしてもらえないかと期待している。だってなんだかんだ言って一花姉は俺たち弟に激甘だったからだ。
汚れた服(ぼろ布)と血でカピカピの包帯を取って綺麗に拭いてもらう。アールツナイは頓着してなかったけど二葉を思い出したらもう気持ち悪くてたまらなかったからありがたい。こう考えるとヒノモトは恵まれていたなあ。公衆便所にも公園にも水道があったし無料で使えていたし。
汚れていないシーツみたいな布で包まれて、フィアツェンさんに宝物みたいに抱っこされた。うーん、今世まだ8歳くらいだったと思うけど、前世大学生だった身としてはちょっと…いや、めちゃくちゃ恥ずかしい。まあ脚がないから運んでもらうしかないんだけど。
運ばれた先にはなんだか見覚えがあるようなないような人たちが跪いていた。手には大きな瓶を持って。うーん、シュール。
誰かが叫んだ。「出涸らし」とかなんとか言っていたから多分アールツナイのことだろう。そして叫んだ女の首が瓶の中に落ちる。ほうほう、なるほどね?床が汚れにくくて、しかも残った人たちに恐怖を与えるという一石二鳥なやつか。前世だったら叫んで失神モノだろうけど、俺は今良い感じ(?)にアールツナイと混ざっている。だから血の繋がった誰かが死んだって心はぴくりとも動かない。残念だったね王家の皆さん。こういう化け物メンタルを育てたのはあんたたちだ。アールツナイのように刻まれなかっただけ幸せだよね?
「ひっ…!!ひいいいいいぃぃぃ!!やめっ、やめろ…!やめ、やめ、やめやめやめやめやめやめてくださいこっ、こ、ころさころさないでひっ…!」
「質問に答えよ」
「はひぃっ!?」
「俺のアールツナイの手足を斬ったのは誰だ」
「…………………は?」
一堂ぽかん。あー、なんでかなあ。なんで『俺の』って言っちゃうのまあ戦利品だろうから所有権主張してもいいけど……あーほら、アールツナイの遺伝子上の父親がぽかんの後に意味を履き違えてニヤニヤしてるでしょ。
「そっ…その秘宝の使い方を、知りたい…と…?」
「……秘宝?」
「そうだ!どこから聞きつけた!?…まあ良い。それはまさに『秘宝』よ。若返りたくば血をグラスに一杯。傷を治したくば小指の先ほどの肉を食し、腕や脚を生やしたくば拳ほどの肉を新鮮なうちに食す。《治癒》の力は無いが《薬》としては非常に優秀な不老不死の妙薬…… 」
ごとん。
父親だった男の首が落ちた。………ん?なんだろう?怒ってる?なにに?アールツナイの使い方に?あれれれれ?眉間に大峡谷ができてるよフィアツェンさん?
「不愉快だ。全て落とせ」
「「「「「「「はっ」」」」」」」
兵隊さんたちがアールツナイと血が繋がってる人たちの背後に立って剣を構えた。悲鳴。懇願。命乞いに呪詛。そしてなぜか俺への罵倒。
「……見ていくか?」
なんだかすごく優しい顔でフィアツェンさんが俺の顔を覗き込んだ。見たいか見たくないかと言われれば見たくない。面倒くさいし、悲鳴がうるさいし、何より血の匂いが臭い。
首を振ると、フィアツェンさんは俺を抱き抱えたまま踵を返した。どこにいくんだろう?なんで?どうして?俺、今からまた食べられちゃうの?でも一花姉に『幸せにしなきゃ祟る』って言われてたしなあ???
「…………ちゃべりゅ(食べる)?」
「ンンッ…!い、いや、それはアールツナイがもう少し大人になってからな?」
「ん」
ほう。育てて大きくして食べますか。痛くないようにして欲しいなあ…。
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