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不遇王子、死神辺境伯と会う
しおりを挟む『痛み』というものは常に私の傍らにあった。
私の母親は、それは美しい『聖女』だったらしい。隣国オストハウプトシュタットでしか生まれない聖女を攫い、孕ませ、生まれたのがこの私だ。聖女であった母は私を産み落としてすぐに自死を選んだ。女神教の教義では自死は許されているが殺人は許されていない。腹に私がいる間は死ねなかったのだろう。
私は第五王子だったが、そう扱われた記憶は一度としてない。
赤子の頃から『治癒』スキル持ちの私は使い潰された。怪我人を赤子であった私の前に連れてきて、足でも腕でも強く抓れば治癒スキルが発動した。部位欠損などの酷い怪我は刃物で斬りつければ、瀕死の者は肉を抉れば。そうして私は治癒の力を使われて続けた。ヒトに過ぎたる力は、使い続ければいつか枯渇する。六つにならない頃、治癒スキル持ちの特徴でもある私の桃色の髪は真っ白になった。そうしてそれからが地獄の始まりだった。
『治癒者の血肉は病と傷を癒し、老いと死を遠ざける』
その文献に縋った王妃が私の生き血を酒に入れて飲むと、肌の張りが蘇り、垂れた乳房は若い娘のように上を向いた。小指を切り落として食した父王は、不治といわれた病を跳ね除けた。それから私は少しずつ刻まれるようになった。少しでも長く保たせるよう、最低限の治療はされた。私の傷はすぐに塞がるから包帯を巻くくらいだが。
王族や高位貴族の傷を癒すために刻まれ。商人に売るために刻まれた。
治癒者は賢者様の子孫とされる。遠い遠い昔の御伽噺。世界を救った賢者様。それを刻んで食すなど、女神様が許さない。そう本には書いてあったのに…。
ああ、だからだろう。
こうして罰が当たっている。
私を連れ出そうとしたのは兄である王太子で。彼は今、目の前で斬られた。兄の胴から上と脚が切り離されて転がった。ついでに私もだ。
兄を斬ったのは黒い鎧の死神だった。黒い髪、黒い瞳の男。不吉とされるその黒い色彩は、何故か私の目に馴染む。だって《ヒノモト》の人間はもれなく黒髪と黒褐色の目で……。
………ん?ヒノモト?ヒノモトってどこ?え?
ぱちりと黒い男と目と目が合う。
うわ。イケメンだなあ。ん?イケメンってなに?っていうか、この話し方なに?俺って誰?俺?おれ……って…わたし…、わたしは、おれ、で………………?
『ああ~テステス、聞こえてるかしら?二葉ちゃん』
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