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ひとでなしと婚前(?)旅行
しおりを挟む蹄の音を響かせながら馬が進む。俺と紫苑が乗る馬はゆっくりと……なのだろうが、非常に体格の良い馬だ。《眷属》たちの乗る他の軍馬たちは爆走している。
馬は紫苑の親たち ーーー 《ふるきものども》が《眷属》とは別に贈ったペットなのだそうだ。漆黒で世紀末覇者の乗るような立派な顔をしているが、性別は雌で名をフローラという。
「くふふ~…婚前旅行だねえ、ハル」
紫苑は終始ご機嫌だ。一日中くっついていて一緒に食事して風呂に入って寝る。いつも通りなのだが、紫苑にとっては違うらしい。
しかし……旅行?これは戦後処理の一環じゃないか?道中はセルヴァンスたちが破壊の限りを尽くして死体と瓦礫の山。気の利いた宿などないから宿泊は天幕だし、風呂も体を拭き清めるだけ。……まあこれは浄化魔法をかけるつもりだったのだが紫苑が「味気ない」というのでやっただけだが…。それに『婚前』…。そうか、婚前だったのか。嫁、嫁、と言われるからすっかり結婚した気になっていたが、まだ婚約すらしていない状況なのか。
野営食は美味い。なんといってもアリトさんの飯だ。「出すの忘れてたわ」と渡された赤飯の握り飯を紫苑と食べたが、甘い赤飯と塩味の赤飯、両方が入っていた。紫苑と馬上で食べさせ合ったが、塩味の赤飯も豆の味が強くて中々美味いと感じた。紫苑も「あれっ?甘い赤飯って和菓子っぽいんだ。僕、これなら食べれる~」と笑っていた。
「あのねえ、ハル。僕ね…その……デキたかも…」
「……………は?」
不覚にも手綱を持ったまま固まってしまった。
「すっごくお腹減るし、すっごくハルとしたいんだ。これって妊娠してるよね?」
いや…どう考えても気のせいだろう…。
だが万が一……紫苑が子を宿していたら?え…?え………
「待ってくれ紫苑。だったら馬に乗せて長時間移動する旅など…っ」
「んん?大丈夫だよ?人間のメスじゃないんだし、お腹に直接入ってるわけじゃないからね」
「?????」
ますます意味がわからない。
「ハルに似た子がいいなあ。男の子!女の子は大事にしすぎて一生閉じ込めちゃいそうだよね~」
中々に怖いことを言う。
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