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ひとでなしの恋
しおりを挟む覚悟の決まった俺は、置屋に帰るエリザベスに付いていった。紫苑を迎えに行くためだ。俺も馬鹿じゃない。自惚れでなければ紫苑は俺に好意を持っている。
俺の魂が『瑞樹春人』だったことがあるというだけだ。それだけで紫苑は逃げた。今まで俺が尽くしたことも全部なしにして、俺じゃなく『春人』として俺を見た。
「……ムカつく…」
紫苑を抱えて帰る途中、つい漏らした俺の言葉に紫苑は身を硬くした。
ああ、違う。そうじゃない。
お前に腹を立ててるんじゃない。『春人』としてしか見られてなかったと落胆する自分が腹立たしい。
「ハ…ハルさん?あの…、ね?僕、自分で歩いて帰るよ?ごめんね…今まで、だ…黙ってて……その…お金で買って、良いようにして…」
「紫苑、俺は『ハル』だ。『瑞樹春人』じゃない」
ひゅっと紫苑が息を呑む音が聞こえた。
「セルヴァンスからもアリトさんからも、何が問題だ、と言われた。その通りだ。何も問題がない。俺は紫苑に買われた『ハル』だ」
「………?」
「『竜胆紫苑』と『瑞樹春人』が血の繋がった父子であっても、何の問題もない」
「……は、る……さ………」
ぎゅうっと紫苑が俺の着物を握った。
「俺はお前が好きだよ、紫苑」
「………………」
「控えめに言って骨抜きだ。お前の為なら人類全部滅ぼしたって良い」
ああ…もう。こういうことは歩きながらする話じゃあないんだろうけどなあ。
「だからお前が俺を見ながら『ハルさん』って言うのも嫌だったし、俺が寝ぼけて言った言葉にお前が逃げ出したのも嫌だった」
「……っ………」
「なあ紫苑?紫苑は『春人』とかいう死んだ人間と、お前が白金貨百枚で買った俺、どっちが好きだ?」
「…ぅ……っえ…、うえっ、……~~!!」
盛大にしゃくりあげてわんわん泣く紫苑を連れて帰る。紫苑が俺に顔を押し付けてできた涙と鼻水のシミを記念に取っておこうと思った。……セルヴァンスに鬼のような形相で奪われて洗濯に出されてしまったけど。
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