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【紫苑独白】
しおりを挟む僕の地球の『母親』は竜胆璃妃という名の、いわゆる指定暴力団の会長の一人娘だった。『お嬢』と呼ばれた璃妃は、『性』を売り物にする仕事を任せられていた。
僕はその璃妃の産んだ一人息子 ーーー 会長のたった一人の孫息子でありながら、『商品』だった。
幼い頃から見目の良い少年少女を集めてきて、『教育』を施す。集められた子供たちは全寮制の学園に通っていた。その殆どが親に売られた子供か、親が不慮の事故で亡くなった子供。
僕たちは18歳になったら売られる。
それが結婚なのか養子縁組なのか行方不明なのか…。その日の為に、僕たちは宝石のように磨き上げられ、奴隷のように従順に育てられる。本番はないけれど、様々な奉仕を毎日毎日仕込まれた。自分たちを見にきた大人たちに媚びを売る。
中にはもっと幼い子供がいいという特殊性癖の客もいたらしいが、それは別部門の商品だ。
僕は璃妃の息子ということもあり、監視役は付くけれどかなり優遇されていたと思う。12歳にして過去最高額で落札され、納品先が既に決まっていたせいもある。
18歳になったら、自分の意思でそうしたように工作され、僕は売られる。
僕はとても性格の悪い子でね?学園に入れられた時から「さあどうやって逃げよう」……それしか考えてなかったよ。
ただ逃げるだけじゃすぐに捕まる。その辺の金持ちでも誑し込むか。それじゃあ本末転倒だ。
そんな時、偶然に『璃妃の宝物』を見つけた。
あの璃妃が。幸せそうに頬を染めて。真っ昼間に男の腕にぶら下がって。
僕は笑いを噛み殺せなかった。
ああ、見つけた。アレがあの女の弱点だ。
僕の監視役の男が舌打ちするのも聞き逃さなかった。監視役の男は、璃妃に惚れてたからね。
痩せてくたびれたオジサン。無精髭に目の下の隈。襟が擦り切れて皺だらけのシャツ。本命はつまんない男なんだな…と笑った。オジサンのことは監視役の男がペラペラ喋った。調べる手間が省けたよ。
売れない物書き。お嬢のヒモ。もう20年近く。
僕は監視役の男を引き込んだ。僕があの男を璃妃から遠ざけてあげる、…と。頭の悪い男で助かったよ。僕はやや強引にオジサン ーーー ハルさんに近付いた。
タイムリミットは1年。
でも……でもね。予想外のことが起こった。ハルさんを僕に夢中にさせるのは簡単だったけれど、僕もハルさんが好きになってしまった。
くたびれたオジサンで、自分勝手でものぐさで。お風呂なんか何日も入らない。ずっとノートパソコンに向かって「アー!」とか「うー!」とか喚いてる。
でも可愛いひとだった。僕の好みは璃妃譲りだったらしい。
璃妃が人身売買してるってショックを受けて欲しかった。僕を売らないでって懇願して欲しかった。その混乱に乗じて……海外に逃げようと思ってた。逃走経路もお金も確保してたし。
でも……まあ、子供だったよね。それで逃げれるわけがないよね。
あの夏の日。
もう誕生日まであと数日。 ーーー バレた。
監視役の男は血まみれにされて転がってた。僕は逃げて逃げて ーーー ……一目でいいから、最後にハルさんに会いに行った。
ハルさんはいつものように腹ペコで、渡したおにぎりをガツガツ食べてた。西日が当たるハルさんのアパートはうだるような暑さで、殺風景な部屋がオレンジ色に染まってた。
僕きっと殺されるなあ。それか、薬でもキメられて今すぐ納品かもなあ。
ガリガリたんを齧りながら思う。
「ハルさん、僕ねえ、もうすぐ誕生日なんだよ。それでね……」
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