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【紫苑視点】いつかだめになるってわかってた
しおりを挟む目が覚めるとあったかい。枕にした胸元が小さく上下する。トクトクと聞こえる心臓の音と、ハルさんの匂い。
幸せだなあ…って思う。
ふわふわした、綿菓子みたいな幸せ。甘くて、良い匂いがして、淡い綺麗な色で、口にすると溶けてしまう。そんな幸せ。
頬杖をついてハルさんの顔を見る。綺麗な顔。なんの夢を見てるんだろう、眉間にシワが寄ってる。前のハルさんは痩せてくたびれたオジサンだったけど、僕のものになった『ハルさん』はとてもきれいだ。くたびれたオジサンも大好きだけどね。
眉間のシワを伸ばすみたいにグリグリ指で押す。なんかムニャムニャ言ってる。可愛い。
昨日、母さんやみんなに太鼓判を押してもらったハルさんだけど、心配しなくたってハルさんは多分 ーーー 僕が一緒に世界を壊してってお願いしたら、きっと全部全部壊してくれる。優しい人だ。僕に飼われたつもりで、僕が可哀想で見捨てることができない、優しいひと。
このままハルさんが……このままだったら。そうしたら、普通の恋人同士みたいに恋ができるのかな?
あ……考えながらグリグリし続けたら、ちょっと赤くなっちゃった。
僕はハルさんの眉間にキスをする。
「……し……………」
うん?なに、ハルさん?僕はここだよ。
「紫苑、くん ーーー 」
「……………っ……!」
ざぁっと血の気が引いた。
………え………………
いま、ハルさん……なんて…?
僕は冷水を浴びせられたように動けなくなる。
思い出した?……まさか?
今まで僕の居場所だったハルさんの腕の中が、もう居てはいけない場所になった。飛び起きて後ずさる。
心臓が痛い。だって、そんな…だって………
「し、おん……?」
ハルさんの綺麗なスフェーンの瞳に僕が映る。
ああ…
ああ、
もう、ダメ……だ ーーー !!
僕は履物も履かずにそこから逃げ出した。
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