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ひとでなしの末路
しおりを挟む俺は前世で赦されない罪を犯したらしい。
らしい、と言うのが、その前世とやらの記憶がないからだ。あの仄暗い空間で、形も分からぬ《神》たちに糾弾された記憶はある。だがそれがなんの罪だったのか、自分はこの体に生まれる前はなにであったのかなど思い出せない。
ただ、苦しめ、と。
苦しんで苦しんで、罪を償え、と。
その言葉通り、俺のこれまでは散々だった。
生まれてずっと閉じ込められていた。そこが地下牢だと知ったのは、乳を含ませてくれていた囚人の女が暴行死した時だ。その次の日からは死なない程度の暴力が始まった。柔らかい粥もろくに食べれない幼児に暴行だ。どんな劣悪な環境だ。だが死なせていいとは言われてなかったようだ。臭う粥を無理矢理口に流し込まれ、殴る蹴るの暴行の後は回復魔法をかけられた。
回復魔法…。
信じられない。俺は御伽噺の世界に転生したのだ。
歩けるようになると、首輪を付けられ狩りに連れ回された。首輪に繋がる鎖を握っていたのがどうやら今生の父親のようだ。ろくでもない。ひとでなしの父親はろくでなしだった。手を引き千切られ、腹に穴を空けながらも俺は生きていた。生かされていた。
ここで俺は、エルフという御伽噺の生き物に生まれ変わったのを知る。そして、俺は王妃が産んだ不貞の子供だということも。
苦しめ。苦しめ。苦しんで償え。
そう嗤う父親の顔と、俺を咎人と断じた神々の顔が重なる。
嗤っていた。醜く顔を歪めて。ただ……
『地獄に堕ちればまた会える』
そう言った女神の顔は思い出せない。あの女神だけが嗤ってはいなかった。怒っていたのか、泣いていたのか。
狩りの囮と、地下牢での暴行を繰り返す。
そんな時、国が滅亡した。
攻めてきたのは、鉄の鎧を纏った軍隊だった。
エルフ族の子供は珍しいようだ。俺は人間の王に献上され、第一王女に下賜された。
幼い王女はそれは美しく、残酷な少女だった。
ありとあらゆる拷問を試し、傷付けるために癒し、そして戯れに戦場に放り込んだ。
死にたく、ない。
これが罰だとしても。俺を苦しめるだけの罰でも。
なんでもした。
死体に隠れて騙し打ちも、女子供を人質にしても。子供だということで油断させて鏖にもした。腕が千切れて腸が垂れ下がっても。それでも俺は生き延びた。生き延びるうちに、そこそこの強さと自己回復を得る。戦の中での重要性が高まってくると、体を清め清潔な衣服を纏うことを許された。鎧も与えられた。王女は相変わらず俺が苦しむのが見たいようで、様々な拷問と嫌がらせは続いた。
会いたい。
ーーー 誰に?
何も覚えていないくせに。
王女が年頃になった頃、性的な奉仕も強要され始めた。
何日も洗ってない膣を舐めさせられ、尿を飲むことも強要された。薬で勃起させられて王女の破瓜を手伝わされた。拒否すれば死ぬような拷問を受け、奉仕の後は拷問が待っていた。
地獄だった。
けれど、俺は生きていた。
王女は女王になり、俺は『奴隷の英雄』と揶揄された。
女王の王配が決まり、王子王女が何人も生まれても、俺は寝所に呼ばれた。時には王配の前で腰を振って子種を注ぐ事も命じられた。
そのことが気に入らなかったのだろう。
女王が臨月の隙に、俺は王配と宰相によって最も厳しい戦の前線に送られた。死ね、と。亜人の奴隷でありながら高貴なるお方に触れた罪、死んで償え、と。
この世界に生まれて、初めて俺は死を望まれる。
だから俺は ーーー 。
大規模殲滅魔法の気配を気付かぬ振りをした。
もう疲れていた。前世の記憶もないくせに、前世のモラルだけは記憶に刻まれていた。
『…… ーーー !……!!』
消滅の瞬間に、あの女神の声が聞こえた ーーー きが、した……。
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