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遠い昔【メアリ視点】
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「ふふっ。そろそろ奥様もお目覚めになっている頃かしら」
メアリはふんふんと鼻歌を歌いながらアイラの部屋に向かっていた。時刻はだいたいお昼を少し過ぎたあたり。仕事に夢中になっていたメアリは眠っている主人のことを思い出して、軽い昼食を手に主人の部屋に向かっていた。
「奥様。おはようございます!そろそろ起きましょうね!」
しかし、返事はない。
「あら。まだお眠りなのかしら?」
失礼します。と一言掛けてから入室しようとするとーーメアリは数秒固まった。
奥様と瓜二つな見知らぬ人が、奥様を見つめている……。
ここで、きゃーと叫んだ方が良かったのか、それとも母直伝の護身術をかけた方が良かったのかわからない。とにかく、声をかけてみることにした。
「あ、あのぅ」
バッとその人はこちらを振り返る。
「どなた様でしょうか?」
「私は…アイラ。あなた、こちらに来てこの子の額に手を当ててみて」
奥様と同じーーアイラと名乗るその女性は、手招きして、奥様の額に手を当ててみてほしいらしい。一体何の目論見があってこんなことを?
相手に敵意がないことを確認して近寄り、そろりと奥様の額に手を当ててみる。
その瞬間、びっくりしてぴょっと手を離した。
奥様は冷たかった。死んだ人みたいに。
「あ、あああああのうっ。奥様は死「死んでないから。安心して」」
「今この子のは眠っているだけ。でも、このままじゃ身体だけが壊死して魂が帰ってこれなくなる」
ーーだから……。
その人の身体が、掠れて消えていく。
前にも同じような光景を見たことがあるような気がした。私がまだ幼子であった遠い昔。
もしかして、
「あなたは…」
前に、私に…。
その人はにっこり微笑んで、最後に『頼んだわよ』と残して消えてしまった。
**********
あれは…私がまだソンニの村にある別荘で暮らしていたとき。私が生まれて4年目の夏のことだったと記憶している。数十年も前に大火災が起こったなんて、当時の写真を見なければわからないくらい、村は回復していた。ただ、前と同じような景観…とはいかなかったらしいけれど。
それでも、私が今見ている村こそが私の故郷に間違いなかったから。気にも留めなかった。
そんなある日。見知らぬ女性が別荘を訪ねてくる。
「こんにちは!こちらはしゅとわねーぜこうしゃくけしょゆうのべっそうです。なにかごようでしょうか?」
「まぁ。こんにちは。ちいさなかわいいメイドさん」
かわいいと言われて嬉しくなる私。
女性は一度迷ったように俯き、しかし決意したように顔を上げた。
「ローディーは、いらっしゃるかしら?」
「もうしわけございません。だんなさまはいま、さかなつりにでかけていらっしゃいます。なかでおまちになりますか?」
「いいえ。大丈夫よ、ありがとう。それじゃあ伝言を頼めるかしら」
「はい!おまかせください」
「××××××××××××××」
「頼んだわね」
そう言って、そのときも女性は掠れて消えてしまった。
旦那様と若旦那様が釣りから戻られたときに、旦那様に伝言を伝えると、足早に物置きに向かわれてしまい、追いかけて物置きに辿り着くと、旦那様は一枚の絵をご覧になっていた。
私に気づいた旦那様はこちらに手招きする。近づいてみると、そのカンバスの中には昼間の女性がいた。
「このかたです!ひるまにこられたのは!!」
「そうか…」
「このかたは、だんなさまのごゆうじんですか?」
「…私の片想いの相手なんだ」
「すてきです!」
「そうかな」
「はい!また、会えたらいいですね」
「そうだな」
『また、必ず会いに行きます。』
そう残した女性はそれ以来私が姿を見ることはなかった。
メアリはふんふんと鼻歌を歌いながらアイラの部屋に向かっていた。時刻はだいたいお昼を少し過ぎたあたり。仕事に夢中になっていたメアリは眠っている主人のことを思い出して、軽い昼食を手に主人の部屋に向かっていた。
「奥様。おはようございます!そろそろ起きましょうね!」
しかし、返事はない。
「あら。まだお眠りなのかしら?」
失礼します。と一言掛けてから入室しようとするとーーメアリは数秒固まった。
奥様と瓜二つな見知らぬ人が、奥様を見つめている……。
ここで、きゃーと叫んだ方が良かったのか、それとも母直伝の護身術をかけた方が良かったのかわからない。とにかく、声をかけてみることにした。
「あ、あのぅ」
バッとその人はこちらを振り返る。
「どなた様でしょうか?」
「私は…アイラ。あなた、こちらに来てこの子の額に手を当ててみて」
奥様と同じーーアイラと名乗るその女性は、手招きして、奥様の額に手を当ててみてほしいらしい。一体何の目論見があってこんなことを?
相手に敵意がないことを確認して近寄り、そろりと奥様の額に手を当ててみる。
その瞬間、びっくりしてぴょっと手を離した。
奥様は冷たかった。死んだ人みたいに。
「あ、あああああのうっ。奥様は死「死んでないから。安心して」」
「今この子のは眠っているだけ。でも、このままじゃ身体だけが壊死して魂が帰ってこれなくなる」
ーーだから……。
その人の身体が、掠れて消えていく。
前にも同じような光景を見たことがあるような気がした。私がまだ幼子であった遠い昔。
もしかして、
「あなたは…」
前に、私に…。
その人はにっこり微笑んで、最後に『頼んだわよ』と残して消えてしまった。
**********
あれは…私がまだソンニの村にある別荘で暮らしていたとき。私が生まれて4年目の夏のことだったと記憶している。数十年も前に大火災が起こったなんて、当時の写真を見なければわからないくらい、村は回復していた。ただ、前と同じような景観…とはいかなかったらしいけれど。
それでも、私が今見ている村こそが私の故郷に間違いなかったから。気にも留めなかった。
そんなある日。見知らぬ女性が別荘を訪ねてくる。
「こんにちは!こちらはしゅとわねーぜこうしゃくけしょゆうのべっそうです。なにかごようでしょうか?」
「まぁ。こんにちは。ちいさなかわいいメイドさん」
かわいいと言われて嬉しくなる私。
女性は一度迷ったように俯き、しかし決意したように顔を上げた。
「ローディーは、いらっしゃるかしら?」
「もうしわけございません。だんなさまはいま、さかなつりにでかけていらっしゃいます。なかでおまちになりますか?」
「いいえ。大丈夫よ、ありがとう。それじゃあ伝言を頼めるかしら」
「はい!おまかせください」
「××××××××××××××」
「頼んだわね」
そう言って、そのときも女性は掠れて消えてしまった。
旦那様と若旦那様が釣りから戻られたときに、旦那様に伝言を伝えると、足早に物置きに向かわれてしまい、追いかけて物置きに辿り着くと、旦那様は一枚の絵をご覧になっていた。
私に気づいた旦那様はこちらに手招きする。近づいてみると、そのカンバスの中には昼間の女性がいた。
「このかたです!ひるまにこられたのは!!」
「そうか…」
「このかたは、だんなさまのごゆうじんですか?」
「…私の片想いの相手なんだ」
「すてきです!」
「そうかな」
「はい!また、会えたらいいですね」
「そうだな」
『また、必ず会いに行きます。』
そう残した女性はそれ以来私が姿を見ることはなかった。
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