悪役令嬢の末路

ラプラス

文字の大きさ
38 / 68

探し人《夢》【9】

しおりを挟む
 私が、未来であの子に出会ってから何年経っただろう。3年…いや、もっと経っている気がする。婆様に引き取られてから、この森から出ることを禁止され、結局妹を見守ることすらできない状況にあったのである。
 そして、腕の中にいる妹は、あの時の妹の姿をしていても、私の妹ではないという。
 けれど婆様は言う。

 生まれ変わることを拒否して、私のもとに来たって。
 それって一体どういうこと?

 婆様はこの数年で私の性格を熟知しているのか、怪しい目を向ける。

 「おまえ、さっきの話がうまく呑み込めてないようだね」

 ギクッ。

 「…いいかい。生き物が死んだ後、魂は天に帰って3通りの道を歩むんだ。1つは転生への道。前世で特に目立った悪事をすることなく生を終えた魂は、またすぐに地上に降りて次の人生を始めることができる。もちろん前世の記憶は消去されるが…。2つめは天国への道。前世で余程悪いことがあったり、疲れたりした魂は、そこで暮らしたり、前世の傷を癒すことも可能だ。3つめは地獄への道。人を殺めたり、前世で悪いことをした人が通る道だね。それで、転生についてだが、転生することを決めた魂は、自分のなりたいものへの思いが強いほど、それは現実になる。逆に、特にこれと言って突出した意思がないと、あちらが勝手に決めた生き物へと生まれ変わることになる。それにね、前世と同じようにはいかないものの、似たようなものに生まれ変わりたいと望んだ魂は、複雑な手続きが必要なんだ。前世と同じ顔、同じ身体、同じ声、になるためにね。だから、その手続きが不十分なまま転生すると、自分の望んだようなものにはなれない。…つまりさ、この子はちゃんとした手順踏んでここまで来たんだ。そのまま転生してくれば楽だったのに、わざわざだよ。それに運もよかったんだ。転生先は誰にも決められない。あんたたち、無事に会えてよかったね。これこそ本物の奇跡だよ」

 そこまで聞くと、なんだか胸の中にストンと落ち着くものがあった。

 それじゃあのとき、この子は私の話を聞いていて、言葉通り私のところに来てくれたんだ。

 腕の中のこの子を見下ろす。
 目頭が熱い。

 「ありがとう。私の言葉忘れずに、ちゃんと来てくれたんだね」
 「あうー!」

 この子はこの子で何やら満足気だ。
 …すると。

 ぎゅるぎゅるぎゅるぎゅるぎゅるぎゅるぎゅるぎゅる……。

 部屋におなかの音が響く。

 「ハッハッハッハッハッハ。さぁ、アイシアナ。この子にミルクを飲ませておやり。この子もさすがにおなかが減って仕方がないんだろう。年寄りの長話にも我慢も限界だったんだろうしな。あぁ。楽しい。家族が増えるのはいいことだな、アイシアナ」

 今日は珍しく、婆様が嬉しそうだ。
 婆様が嬉しそうだと、私も嬉しくなってくる。

 気持ちは伝染する。
 まるで風のように。



しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

ヒロインの味方のモブ令嬢は、ヒロインを見捨てる

mios
恋愛
ヒロインの味方をずっとしておりました。前世の推しであり、やっと出会えたのですから。でもね、ちょっとゲームと雰囲気が違います。 どうやらヒロインに利用されていただけのようです。婚約者?熨斗つけてお渡ししますわ。 金の切れ目は縁の切れ目。私、鞍替え致します。 ヒロインの味方のモブ令嬢が、ヒロインにいいように利用されて、悪役令嬢に助けを求めたら、幸せが待っていた話。

捨てられた妻は悪魔と旅立ちます。

豆狸
恋愛
いっそ……いっそこんな風に私を想う言葉を口にしないでくれたなら、はっきりとペルブラン様のほうを選んでくれたなら捨て去ることが出来るのに、全身に絡みついた鎖のような私の恋心を。

笑わない妻を娶りました

mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。 同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。 彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

処理中です...