悪役令嬢の末路

新たな日々【4】

　馬車が次の目的地に着くまで、アイラは考えていた。
　
　どうして私は、あのときあの人を昔から知っていると思ったのだろう。
　あの人と会話したことはほとんどない…はずだ。結婚式でも、ほとんど口をきかなかったし。
　平民時代に会っていたとしても、あんな人絶対覚えているはずなのに、記憶にないってことは、きっと会ったことすらない。


　…じゃあ、どうして？


　それだけがぐるぐると頭を回る。
　

　「アイラちゃん？」
　大丈夫？と心配そうな義母。
　「だ、大丈夫です。すみません」
　「横になってもいいのよ。それに、ここっ空いてるから!!どうぞっ!!」

　と、バンバン自分の膝を叩いている義母。
　とんでもなく目がギラついていますけど…。お義母さまの方こそ大丈夫ですか？
　ーーなんて言えるはずもなく。

　「え、えと…。それじゃ、失礼します」

　失礼させて頂いた。


　「どうぞ～」

　なんだかとってもご機嫌なお義母さま。
　そのうち、頭を優しく撫でられて、居心地が良くなって、瞼が重くなり始めた。

　いかんいかん！と、自分の中で格闘していると、上からふふっとお義母さまの笑う声が聞こえた。

　「寝ててもいいのよ？」
　「いえっ！寝てしまったら、今以上にお義母さまに負担がかかってしまうので…。せめて目を瞑るくらいでお許しください」
　「まぁ。本当に優しくて、とってもいい子ね」


　パンケーキ屋さんに着くまで、ずっとお義母さまは私の頭を撫でていた。



＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　少しして、馬車が止まった。

　「アイラちゃん。着いたわよ」

　お義母さまの声で、意識が一気に覚醒した。

　「お、お義母さまっ！私…寝て…」
　「大丈夫よ!そんなに重くなかったし、かわいい寝顔、見れたから。私も満足!!」

　馬車を降りると、『さ、行きましょう！』と、お義母さまは私の手を引いて、お店の中へ進んでいく。
　それが、なんだか私には懐かしく思えて、さらに私を混乱させた。




　私の手を引く貴方は…誰？