悪役令嬢の末路

新たな日々【2】

　「アイラちゃん」
　呼び止められ、お菓子に伸ばした手を止める。
　「はい。何でしょう？」
　「今日はうちに泊まりなさい。カイルのことは聞いているわ。連日家に帰っていないのでしょう？出迎えてくれる人がいない家と言うのは、殊の外孤独を感じやすいものだわ。明日、馬車で家まで送り届けてあげるから…駄目かしら？」
　「駄目だなんて、そんなことはありません。むしろ、こんなに気を遣って頂いてありがとうございます。お義母さま。でも、大丈夫です。私のことはメアリが出迎えてくれますから、寂しくはありません。…けれど、折角会えたお義母さまとのお茶の時間をお開きにしたくはありません。お義母さま、もう少しお付き合い頂いてもよろしいですか？」
　「アイラちゃん！」
　突然、目の前に影がさす。
　私はお義母さまの胸の中にいた。
　「本当に、いい子ね」
　もっと早く会いたかった。
　そう呟かれた時、私の中のネジが緩んだ気がした。同時に、涙腺も緩んでしまったようで、目頭が熱くなってしまった。
　私にも、お母さまがいたらこんな感じなのかな。


　でも、ちょっと待って。
　こんなブサイクな顔…お義母さまに見せられない。


　慌てて目元を隠す。
　「まぁ、どうしたの？気分が悪くなってしまった？」
　「いいえ。ただ、目の前にお義母さまがいると、とても安心してしまって…」
　「あら嬉しい。今度は一緒に買い物にでも行きましょうか。たくさん強請って頂戴ね。母親っていうのは、おねだりされるのが嬉しいものだから」
　「…はい」

　アイラは、今度の買い物でスカーレットと一緒に服やアクセサリーを見たり、ご飯を食べたりする場面を想像すると、とても嬉しくなって、口元を綻ばせた。