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回想:新米侍女と新妻
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『おはようございます。奥様』
私の世話は主にリリーの仕事だった。
持参金というはしたお金と少しの花嫁道具を持って、私は一人でメルツィー家に嫁いだ。
そこで一番はじめに会ったのがリリー。
『は、はは初めましてっ!リリーでございます!』
自分の家には侍女という人や、執事という存在も居なかったから、互いに自己紹介をした時にこれがあの噂の…とまじまじと眺めていたのを今でも覚えている。
リリーは私の視線に、自分が何かやらかしたのかと気が気でないって顔をしていたけれど…。
ごめんねリリー。
「フローレンスです。よろしくお願いします。リリーさん」
そう言って、わたしはリリーに手を差し出した。
しかし…。
「私のような使用人には勿体ないお言葉でございます。どうぞ私のことはリリーとお呼びください。奥様」
目の前が暗くなる。
お願い。そんな事に言わないで…。
私はここで、家族をつくるために嫁いだの。
世間一般ではこんなものなのだろうか。
使用人という、自分の身の回りのことを補佐してくれる人は、両親や祖父母以外にいなかったため、いまいち自分と使用人との距離が掴めない。
『まあまあ。そんなに緊張しなくても大丈夫よ』
どう答えたものかと困っていると、リリーの隣にいたアンが、ぽんぽんとリリーの肩を叩いた。
「すみません奥様。この子は先月入ったばかりでして、まだまだ不慣れな事もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
そう言って、アンは私に頭を下げた。
「よろしくお願いします。あの、私はみなさんの事をこれから一緒に生活していく家族だと思っています。なので、できれば堅苦しくない程度に普通に話せたら…その、嬉しいです」
「「「「わかりました。奥様!!」」」」
その日から、なぜだか(自分の発言のせいであると思うけれど)使用人ーー特にアンをはじめとする侍女さんたちはよく話しかけてくれるようになった。
そのうち、私もだんだん慣れてきたのか、口調も実家の時のと同じものになっていった。
そして、リリーともあれから少しずつ距離を縮めていき、遂には軽口を叩いて笑いあえるまでになった。
『奥様、おはようございます』からはじまって、『おやすみ』でおわる。
それまでに、たくさんの話をして私を楽しませてくれるリリー。
私は、リリーの飾らない態度が好きだった。(もちろん侍女さんたちはみんな媚び売ったりはしませんよ!!)
格下でも貴族。私にも立場というものがある。
社交界という情報交換の場では、女性は皆扇で口元を隠して、他人の醜態をよく口にする。
それが嫌だった。
だから、そこで友人を作る気にもなれなかった。
だから、余計にリリーの素朴な態度がより新鮮に見えたのかもしれない。
リリーも貴族令嬢だとアンから聞いたけれど、そんな風には見えなかった。
きっと、わたしの知っている貴族と、リリーは違うのだろう。
それでもふと、私はリリーの知らない事があることが、少し寂しくなる。
きっと、これは独占欲であり、嫉妬。
友達を、他の誰かに取られたくないという嫉妬という感情。
それなら、私の旦那様に対する感情は、なに?
私の世話は主にリリーの仕事だった。
持参金というはしたお金と少しの花嫁道具を持って、私は一人でメルツィー家に嫁いだ。
そこで一番はじめに会ったのがリリー。
『は、はは初めましてっ!リリーでございます!』
自分の家には侍女という人や、執事という存在も居なかったから、互いに自己紹介をした時にこれがあの噂の…とまじまじと眺めていたのを今でも覚えている。
リリーは私の視線に、自分が何かやらかしたのかと気が気でないって顔をしていたけれど…。
ごめんねリリー。
「フローレンスです。よろしくお願いします。リリーさん」
そう言って、わたしはリリーに手を差し出した。
しかし…。
「私のような使用人には勿体ないお言葉でございます。どうぞ私のことはリリーとお呼びください。奥様」
目の前が暗くなる。
お願い。そんな事に言わないで…。
私はここで、家族をつくるために嫁いだの。
世間一般ではこんなものなのだろうか。
使用人という、自分の身の回りのことを補佐してくれる人は、両親や祖父母以外にいなかったため、いまいち自分と使用人との距離が掴めない。
『まあまあ。そんなに緊張しなくても大丈夫よ』
どう答えたものかと困っていると、リリーの隣にいたアンが、ぽんぽんとリリーの肩を叩いた。
「すみません奥様。この子は先月入ったばかりでして、まだまだ不慣れな事もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
そう言って、アンは私に頭を下げた。
「よろしくお願いします。あの、私はみなさんの事をこれから一緒に生活していく家族だと思っています。なので、できれば堅苦しくない程度に普通に話せたら…その、嬉しいです」
「「「「わかりました。奥様!!」」」」
その日から、なぜだか(自分の発言のせいであると思うけれど)使用人ーー特にアンをはじめとする侍女さんたちはよく話しかけてくれるようになった。
そのうち、私もだんだん慣れてきたのか、口調も実家の時のと同じものになっていった。
そして、リリーともあれから少しずつ距離を縮めていき、遂には軽口を叩いて笑いあえるまでになった。
『奥様、おはようございます』からはじまって、『おやすみ』でおわる。
それまでに、たくさんの話をして私を楽しませてくれるリリー。
私は、リリーの飾らない態度が好きだった。(もちろん侍女さんたちはみんな媚び売ったりはしませんよ!!)
格下でも貴族。私にも立場というものがある。
社交界という情報交換の場では、女性は皆扇で口元を隠して、他人の醜態をよく口にする。
それが嫌だった。
だから、そこで友人を作る気にもなれなかった。
だから、余計にリリーの素朴な態度がより新鮮に見えたのかもしれない。
リリーも貴族令嬢だとアンから聞いたけれど、そんな風には見えなかった。
きっと、わたしの知っている貴族と、リリーは違うのだろう。
それでもふと、私はリリーの知らない事があることが、少し寂しくなる。
きっと、これは独占欲であり、嫉妬。
友達を、他の誰かに取られたくないという嫉妬という感情。
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