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閑話:執事、とんでもないものを見つける。【前編】

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執事のルイスが夜の見回りをしていると、何やら四つ折りの紙切れを見つけた。
「ん?」
誰がこんなところに…もしお客様が来られたら、「あら、公爵家ともあろう高貴な家がチリの一つも掃除できないなんて…」と、虎視眈々と公爵家の失脚を狙う者達にすれば、ネチっこく言われることはまず間違いないだろう。朝イチで掃除担当に問いたださねば。

だが、一体この紙は何だ?
もしや、密偵の報告書!?
それとも月末決済書!?
そんな大事な物が廊下に落ちているなど…。
ごくりっ…。
色々と悪い想像が広がり、真相を確かめるべく、その紙を開いた。
「!?」
ルイスは開いた口を閉じることができなかった。
もっと言えば、叫んでしまいそうなほど驚いた。そうしなかったのは、長年の執事精神によって鍛えられたポーカーフェイスのお陰だろう。

しかし、これは…。
執事は悩んだ。
このことを主人に報告するべきなのだろうか。
これを書いたのは、恐らく奥様だ。
主人である旦那様が自分から離婚届に名前を書くなどありえない。
なぜなら、旦那様は周りが目を当てられなくなるほど奥様を愛しているから。
ただ、婚姻前に奥様の父君がもしものときのためにと、2枚の離婚届を懐から取り出し、お二人に署名させていたのを思い出す。
そのときの旦那様のお顔と言ったら…。
絶対に離縁なぞせんっ。とその顔が語っていた。
それに、長年恋い焦がれやっと手に入れた存在だと、そう言っておられた。
そんなお方が、離婚届など書くはずがない。

うんうん。と納得して頷いたのはいいが、この紙をどこに持っていけばいいのか、さっぱりわからない。
旦那様に見せてしまったら、きっとビリビリに破かれて、チリと化してしまうだろう。
きっと、奥様もなにか事情があって名前を書かれたはず。
ルイスは執事という職業柄身についたスキルで、見てもいない状況を推測する。

あとから奥様にこっそりと確認を取ろう。
そう思った矢先、一つの疑問が浮かんだ。

そういえば、なぜこんなところに離婚届が落ちているんだ?
はじめに感じた疑問とは、少し違ったものだった。
確か、ここ最近旦那様はまるで奥様を囲うように、部屋からお出しになっていない。
そんな奥様が、どうやってこの廊下に離婚届を落とす(故意ではないと思うが)というのだろう。
奥様の部屋と、今いる場所は少し遠い。
奥様がここまで来れるかどうかも怪しい。

まさか、第三者の介入…!?

ピキーンっと閃いたような気がする。
しかし、自分で言うのもなんだが、うちの使用人は真面目で口も堅い。そして、主人が困ることは一切しないという優秀な選ばれたエリート集団。そんな彼らがわざわざ奥様の離婚届を廊下に落とすだろうか。
いや、絶対にしない。
それに、奥様はうちの使用人ーー主に侍女たちに好かれていた。

そこまで考えてはっとした。
もし、奥様が旦那様と離縁したいと思っていることを侍女が知っていたら、あの奥様大好き侍女集団は、きっと奥様の手を取る。

ということは、犯人(?)は侍女の誰かということになる。
そんな考えに至った瞬間、悲鳴が聞こえた。
「いやぁー!!」

考える前に私の脚は動き出していた。
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