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お邪魔虫に容赦はしない
しおりを挟む「迷子の迷子のダニエルにゃん、あなたの居場所はどこですか~?」
替え歌を口ずさみながら、マーブル模様の巨大な球体の周囲を観察するが、出入口が見当たらない。不透明で中の様子も全く見えず、犯人と思しき者の姿もない。
いつも精霊たちは、凄い物ができたら自慢しようと我先にと集まるのに……。
まだ未完成で、中で作業中なのかな? ダニエルはそのお手伝いとか?
「おーい、いい子だから出ておいで~」
ピアスの反応は中からしてるんだよなぁ……返事がない、ただの居留守のようだ。
あれ、のん気に探してたけど――もしかして、トラブルだったりする?
魔力を練って作られた膜……しゃぼん玉? いや、それほどキレイに見えないし、ベトベトしそうで触りたくないな。全身にバリアを張って侵入しようっと。
どっこいしょっと。あれ、ダニエルの他にも誰かいる?
あんなに親し気にダニエルの肩に手を回すなんて、一体誰だろう?
全く見覚えがないシルエットだし、何より――
「どうやってここに入ったの?」
「おや、かわい子ちゃん発見!」
人を見るなりニヤついてる、この露出過多&装飾過多なチャラ男は、一体なに?
ってか、ダニエルの首にヤツの腕がはまってるように見えるんですが?
チョークスリーパーとかいうやつだっけ?
あははははははははっ!
「ぶっ殺―― 否、滅する」
「ちょっ、待っ! 殺気がやべぇんだけど!?」
「来っ、るな……」
あらあら、ダニエルったら。そんな苦しそうな顔で言われても、止まれる訳がないでしょう。余計に殺る気満々になっちゃう。心配しなくても大丈夫だよ。ダニエルを虐めるような奴に容赦など一切しないから。
「うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!」
あっ、いっけね。力み過ぎて避けられちゃった。ドラゴンすら一撃で捉えた技なのに意外と素早い。生意気な。
まあ、ヤツが魔法に気を取られている間に、ダニエルは返してもらったけど。
「なんて過激な技を使うんだよ!?」
「エ、リス…… すまない。見つかる前に追い出したかったんだが……」
「謝ることないよ。ダニエルが無事なのが一番大事なんだから」
あれ、見つかる前にって―― えっ、それって嫉妬? 独占欲? ダニエルが私に執着を発揮する日がついにきたの!? 嬉しい! もっと溺愛してくれてよろしくってよ! って、浮かれてる場合じゃない。エリスちゃんチェックをせねば。
少し乱れた髪、荒い息遣いに薄っすらと浮かぶ汗。勇ましさの残る表情といい……うん、ダニエルはこんな時でもカッコいい! いつもは息も乱すことなく敵を圧倒しちゃうから、こんな野性味あふれる戦う男って感じの姿って初めてじゃない? はわわぁ~、セキュリティカメラにちゃんと記録してるよね!? 絶対にダニエルお宝コレクションに追加せねばっ!
って、ダニエルに目が眩んでる場合じゃない。そう、さっき首を―― っ!?
あうぅぅ…… 真っ赤になってるぅ。ダニエルの色気の漂う首筋がぁ! こっそり付けたキスマークも分からなくなってるじゃない! もう他にケガしてないよね?
「そんな泣きそうな顔しなくても、俺なら大丈夫だ」
「ダニエルぅ……」
もっとギュッとして、よしよしして! めちゃくちゃ心配したんだから。
「なんつー危ねぇことすんだよ。直撃したらシャレにならんレベルだろーが。
って、聞いちゃいねーし。おーい、俺を無視すんなぁー」
私とダニエルのラブラブタイムを邪魔するなんて、やっぱり容赦するべからず。
庭が陥没しちゃったし、空間に歪みができちゃったけど、まあ後で直せばいいし。次は絶対、確実に当てる。
「ちょい待てって! 俺は聖女がここに居るか、そいつに確認しただけだぞ。
穏便に済ませようとしてんのに、先に手を出して来たのはそっちの――」
「ダニエルは悪くない。彼に攻撃されたんなら、される方が悪い」
「なっ」
「ダニエルは、何もないのに手を出すような人じゃないもの。ね?」
「エリス……」
うんうん。私の大好きなダニエルのことなら、ちゃんと分かってるからね。
「待てって! そもそも嬢ちゃんの魔法は何なんだよ。詠唱はどうした!?
無詠唱でそんな複雑な魔法をポンと出すなんて、ただの聖女じゃないだろう」
ほんと、このチャラ男はさっきから何を言ってんだか。どうせあの面倒臭いGどもの回し者でしょ、しつこいなぁ。あいつらも私が聖女じゃないかって最後の最後まで疑ってたからなぁ。ボロは出してないはずなのに、何を根拠に言ってるんだか、さっぱり分からん。
「聖女なんてここにはいませんよ」
「おいおい、そんなバレバレの嘘を誰が信じるっつーんだよ」
お前もか。今さっき会ったばかりで、何で聖女だと確信してんの? 今までの流れのどこに聖女要素があった? 見た目が美少女だから認知バイアスかかってる? まったく。どこからどう見ても愛する旦那様を護ろうとする、ごく普通の新妻――きゃっ、新妻っていい響きじゃない? ダニエルに『俺の嫁』とか呼ばれたいっ!
期待を込めてキラキラの瞳で見つめたけど、ダニエルったら何かさっきからずっと険しい顔をしちゃってるのよね。ケンカっ早い性格でもないダニエルが、ここまで警戒心剥きだしで怒ってるなんて珍しい。あのチャラ男ったら、何をしたんだか。
「自ら聖女の役割を降りるような奴なら、少しは話が通じるかと思ったのにさぁ。
護衛さえ耳を貸さないような輩だとか、ないわー。折角、先にこいつを――」
「誑し込もうと?」
「そう、誑し込んで………… うん?」
私の愛するダニエルをいいように騙そうとするなんて――
「ふふふっ、ぬっころ」
「へ? いっ、いや、待て待て待て! 違う、違うぞ。そんなつもりはない!
ただ話し合おうとしたってか、交渉しようとしただけだっつーの!」
「一方的な意見の押し付けを交渉とは呼ばん!」
「おぉ、こわっ。この兄さんは、なーにをそんなにムキになってんだかなぁ。
こっちが好条件を出してる内に、大人しく交渉にのった方が賢明じゃねぇ?」
「ふざけるなっ! 交渉の余地などないっ!」
おやまあ、ダニエルったらかなり苛立っておりますなー。そんなお顔もよきかな。それにしても、チャラ男はこちらを揶揄うみたいに楽し気に笑ってるし、条件ってどんな事を言われたんだろう?
「折角、誰もが欲しがる名誉をこっちから与えてやるって言ってるのにさぁ。
これ以上の価値を求めるなんて、人間ってのはほんと欲深いなぁ」
「冗談じゃない、何が名誉だ! そんな事を許してたまるか―― っ!?」
ダニエル、いい子だから突っ込んで行っちゃダメですよー。既に全回復してるとはいえ、ちょーっと落ち着こうか。
ふふふっ。急に動けなくなって、戸惑った顔で私を見つめても行かせませんよ? どんな深手を負っても、私なら完治させられる自信はありますよ。でもね、だからってダニエルに痛い思いをさせるのは、とーっても不愉快なのですよ。
ピアスに付与したチート能力を以てしても防げず、ダニエルにここまで苦戦させるなんて、このチャラ男ってば相当の実力者みたいだし、超強力なバリアを張っても安心できないんだもの。
そんな歯痒そうな顔してないで、ほら『痛いの痛いの飛んで行け~』の代わりに、ほっぺにちゅうしてあげるから。うーん、足りませんか? じゃあ、もっとちゅっちゅしながら、頭もわしゃわしゃ撫でてあげちゃうっ!
「今度は放置かよ。下手に出てるからって、俺を見くびんない方がいいぞ。
さっきの魔法に驚きはしたが、こっちはあと二段階の変形ができんだからな」
「ヘー、ソレハスゴイデスネ」
急に眼の色を変えて凄まれても、微塵も怖くもないので怯みませんよ?
「いくらでも受けて立つけど?」
「エリス、危ないことは……」
何を仰いますかダニエルさん。私たちのラブラブ生活に水を差すどころか、色濃く影を落としそうな存在が目の前にいるんですよ? それに負ける気しないし。
「チッ、少しは狼狽えろよ。大抵の奴は対峙しただけでビビるっていうのにさぁ。
まあ、まずは俺の話を聞けって。俺は魔族を統べる――」
「どーでもいいー」
相手が何者だろうと、愛するダニエルを傷つける存在は排除するのみ。
今度はダニエルを巻き込む危険もないし、遠慮なく全力投球してあげちゃう。
あっ、また避けられたら面倒だし、いっそ『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』戦法でいっちゃおうかな? おぉっ、火球のジャグリングって結構楽しいかも!
「いや、少しは話を聞こうとしろよ。ちょっ、ちょちょっ、待てって!
その物騒な魔法をしまえ! あ、いや、その…… し、しまってください」
あら、もう降参しちゃうの? まだ準備中なのに。折角、全方位から狙えるようにポンポンポンと、お手玉感覚で火球を生み出して空間全体に並べてあげたのに。
それに、私は優しいから変形とやらをする時間は待ってあげるわよ?
「俺は戦うつもりはなかったんだって!」
「じゃあ、正座」
「は?」
「ここに座って」
「何で俺がっ―― いや! わっ、分かった。ここに座ればいいんだな?」
どうして俺がこんなことをとか、ぶうたれても、こちらは絶対に折れませんよ。
まずは謝罪。それで子猫ちゃんの怒りが鎮まったら、害虫駆除に割く無駄な時間の持ち合わせはないので、さくっと強制退場させよう。
庭とかの修復作業やセキュリティの強化は、精霊たちに任せよう。
私はこれからダニエルにゃんの心を癒すため、甘やかしにゃんにゃんしてあげるので忙しいからね!
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