冬生まれ

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教室に着くや否や、俺は扉のガラス越しに中を確認する。教室には結那だけがいた。自身の机に腰掛け、スマホを弄りながら暇を潰している様だった。

「おうおう。奴さん、これからとんでもねぇ羽目になるとも知らずにいやがるぜぇ……クククッ!」

結那を小馬鹿にしながら、俺は教室の扉に手を掛けた。ガラッと開かれる扉に反応した結那が此方に振り向き俺を見た。

「奏……」「あっ、あの…ゆ、結那君?」

俺の名を呼び掛けた結那に声を変えて此方から話を掛ける。結那は一瞬固まったが、すぐに返事をした。

「そうだけど……君は?」「わ、私は……えっと」

唐突に名前を聞かれて焦る。『そこまで考えて無かった~~!』と、仕方なく適当な名前を閃き告げた。

「か…加奈【かな】です!」「ふぅん……」

結那は何処か興味なさげに呟いた。

あれ?

俺は結那の態度に違和感を覚えた。何故なら、いつもの結那はこういう塩対応はしないからだ。いつもはこう、もっと“のほほん”とした態度をとるのだ。基本女子には優しい結那はクラスメイトだろうとなかろうと、誰彼構わず同じ様に接すると言うのに……。今の結那は優しい処か少し怒っている様にも感じた。

「あの、結那……くん?」

少し警戒しながら名前を再び呼ぶと、結那は俺を見つめて告げる。

「何?」

その言葉はまるで拒絶を示すような冷ややかな物言いだった。しかし、俺は気にせず口走る。

「あ、あの、その…ア、アタシ、ずっと前から結那くんの事がす、す、好……「ごめん」

いや、まだ話をしてる最中だろうがッッ!!

突然の遮りに呆然と結那を見ると、結那は俺から顔を俯かせて静かに告げた。

「悪いけど、君の気持ちは受け取れないんだ」「えっ」「ホントに……ゴメンね?」

謝罪しながら此方を見た結那の顔は今までにないほど、酷く冷ややかな笑みを浮かべていた。

「ヒィッ!!い、いいえッ、ごごごめんなさいッ!!!!」

その恐怖故に小さく悲鳴を洩らして逆に謝ってしまった。

ヤバいヤバいヤバい怖すぎるッッ!!

なんで怒ってるのか分からないが、一刻も早くこの場から逃げ出したかった俺は、急いで入り口へと向かった。その時、あまりにも震える足が縺れて入口の扉へ届く間もなくその場に転んだ。

「ギャッ!」

床に思いっきりすっ転んだ俺に、結那が慌てて駆け寄って来た。

「ッ…キミ、大丈夫ッ!?」「イタタタ……」

這いつくばっていた俺は、結那が来る前にどうにか身体を起こそうと床に手をついた。すると、長い黒髪ごと手で押さえつけていたせいか、それはあれよあれよと目の前にバサリと落ちた。

「あっ……」

声が漏れたのもつかの間、背後の足音がピタリと止まり、結那の声が微かに聞こえた。

「えっ……奏、人?」

名前を呼ばれて血の気が引いた。恐る恐る後ろへ振り返ると、そこには目を丸くしながらスマホを手にシャッター音を鳴らす結那の姿があった。

「ちょ、なに撮ってんだよ!!」「えっ?記念……」「記念じゃねぇよッッ消せ!今すぐにっ!!」「ヤダ」「はあぁッ!?」

あまりの羞恥に勢い良く立ち上がった俺は、そのまま結那に飛び掛かる。

「コノヤロー消せってばッ……!!」

結那の手にあるスマホを取ろうと手を伸ばすと、逆に手を捕まれ、そのまま抱きしめられた。

「なっ!おいコラッ放せっ!!」

ギチギチと身体を締め付けてくる結那に怒りをぶつけるが、結那は無言のまま放してはくれない。それどころか力を入れて抱きしめてくるもんだから、身体が軋み、痛みすら感じた。

「ゆ、結那ッ、痛い!痛いから放せぇえ!!」「……」「結那って!ホントに痛いってえぇ!!」

無言の結那に怒りを通り越して段々と恐怖心が湧く。俺は痛みと恐怖で涙目になりながらも、結那に懇願した。

「結那さん、ホントお願いします。俺の身体がこわれちゃうよぉおい!!結那ぁあああ!!!!」

すると結那の腕が少しだけ弛んだ。てっきり離してくれるものだと、俺は結那にお礼を言おうとした。

「結那!ありが──────」

しかし、言い掛けた言葉は結那の不意打ちのキスによって呆気なく紬がれた。

「ッ……!」

俺は思わず拳を振るった。
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