親友が迎えに来ました

冬生まれ

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親友が迎えに来ました

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昨夜、誰かに呼ばれて目を覚ますと三日前に交通事故で亡くなった筈の親友が枕元に座って俺の顔を覗いていた。
 
 「おい、起きろよっ!」「んっ…誰だぁ?」「俺だよ。お前の親友の……」「!?」
 
寝起きの俺に顔を近付け笑顔を見せた親友に寝惚けていた頭が一気に覚醒するまでそう時間はかからなかった。

「お、おまっ…えっ!?何で?」「よっ。やっと目醒したかっ…!!」「ゆ、ゆ…幽霊っ!!」
 
悲鳴に似た叫び声を上げた俺は怖くなって布団に潜ろうとすると親友は手を伸ばし、布団を握る俺の手をぐっと掴んできた。
 
「お、おい!何をそんなに驚いているんだっ!?」「ぎゃあああっ!!成仏してくれよぉ!」「何でっ!?」
 
泣き叫ぶ俺に驚く親友は俺の手を掴んだまま落ち着けようとする。
 
「だっ、大丈夫だって!何もしてないだろっ!?」「南無阿弥陀仏!南無阿弥陀仏!」「効かないから!」 
 
少し苛立ちを含んだ親友の声に恐怖を覚え、俺は更にお経らしい呪文を唱えた。
 
「南妙法蓮華経!?なっ、ナンマイダー!!アーメン…!」「だから効かないって言ってるだろ!?」「じゃあ、何なら効くんだよ!!」
 
親友の言葉に逆ギレしながら聞き返す俺を見て、親友は溜息混じりに呟いた。
 
「ハァ…。何も効かないよ」「なっ…」「つうか、何で成仏させたがる!お前の親友だぞ?俺はッッ!!」
 
今度は親友がキレながら俺に文句をぶつけた。
しかし俺にだって反論はある。
 
「だって…お前、もう死んでるし。枕元に現れたってことは俺に何かを言いたいわけだろ?」「まぁ、確かに…」
 
納得した顔をする親友に俺は続けて話す。
 
「て、ことはだっ。お前が言いたいことイコール成仏したくても出来ないから俺の目の前に現れたということだろ?」「!?…それは違うっ!!」「ひぃっっ!!」
 
親友は俺の話に間髪入れずに言い返した。
その顔はもの凄い形相で俺は思わず後ずさる。
 
「怖いんだよっ、お前のその顔!!」「違うんだ!俺がお前の前に姿を現したのは成仏したいからじゃ無いっ!!」「じゃあ、何で出て来たんだよっ!?」
 
言い寄る親友に顔を背けながら怒鳴る様に叫ぶと、親友は俺の肩をがっしりと掴んで言った。
 
「お前の事が心配なんだよっ!!」「…えっ!?」
 
親友は俺の肩から手を外し、背中ヘと腕を回してくると優しく抱き締めてきた。
 
「心配なんだ。お前を一人残していく事が……」
 
抱き締めてくる親友に俺は昔の事を思い出す。

「元気ないなぁ~!ほら、俺の胸貸してやるよ!!」「ちょっ、苦しいっ…男の胸なんて嬉しくないって!!」

親友は生前スキンシップが激しく、よく俺を抱き締めていた。
俺が元気なく落ち込んでいる時は特に酷く、所構わずやるから周りからは“大の仲良しさん”とからかわれたりもした。
それが少々ウザく感じる時もあったが、俺も何だかんだで親友の腕の中は心地良くて好きだった。

無言のまま親友の背中に自身の腕を回し、少しだけ力を入れて抱き返す。
 
「たくっ。お前はいっつも…心配性だなぁ」
 
震える声を必死に抑え、熱くなる目頭に涙を溜めながら俺は親友の胸元に顔を埋めた。
 
「大丈夫だよ。お前が居なくても、俺ちゃんとやって…いけ……」 
 
最後まで言おうとした言葉はうまく話せず、我慢していた涙はいつの間にか流れ落ちていた。
泣き出す俺に親友は背中に回した腕を離し、俺の頭に手を置いてにっと笑った。
 
「やっぱり、お前には俺が居ないと駄目なんだなぁ……」「グスッ…すまん…俺…」「気にすんな。俺達、親友だろっ!」「ん…」

親友は優しく俺の頭を撫でるとその手を今度は俺の目の前に差し出した。
 
「ほらっ!」「ん?」
 
差し出した親友の手の意味が分からず、涙を拭いながら見つめていると親友は首を傾げた。
 
「どうしたんだよ?ほら!」「えっ…いや、ん?」「ん?じゃなくて、ほ~ら!」「いやっ、あの……」
 
親友が差し出してくる手を退けながら何故手を差し出してくるのかを聞いた。
 
「…この手は何?」「えっ、いやっだから一緒に行こうって……」
 
悪びれる様子もなく、そう呟いた親友に俺は血の気が引く。
 
「ばっ…ちょっ、お前ふざけんなよっ!?」
 
俺は急いで親友から距離をとると、親友は俺が離れたことに不満を漏らす。
 
「なんだよ。急に……」「なんだよじゃないよっ!何勝手に人を連れて行こうとしてんだよっ!?」「だって寂しいんだろ?お前、俺と一緒に居たいって言ったろ!」「誰もそこまで言ってないだろっっ!?」
 
親友は俺に近づきながら訳のわからないことを言い、俺は親友に反論しながら距離をとる。
互いに磁石の同磁気みたいに近づいたら離れを繰り返した後。
 
「なぁ、一緒に行こうぜ?」「嫌だ!!」「何で?親友だろ!?」
 
しつこくあの世に誘ってくる親友にいい加減痺れを切らした俺は遂に怒鳴り散らした。
 
「うるせぇなぁ!俺はまだ生きてたいんだよっ!!お前とちがってまだ俺は生きてんだっ!親友なら黙ってあの世で見守っていてくれよっ!!!!」
 
親友は俺の言葉を聞くと黙り込んでしまい、俺は思わず口走ってしまった言葉に気付いて躊躇いがちにしを見ると冷たい瞳で此方を見つめていた。
 
「な、なんだよ……」
 
話を振るも何も話さない親友にじわじわと恐怖心が沸き、親友の目を見つめながら一歩ずつ後ずさる。
静まり返る空間には嫌な空気が流れ、沈黙している時間に堪えきれず声を掛けようと口を開いた時、親友は俺の言葉を遮り呟いた。
 
「お、おい、なんか言ったら…「───…さない」「えっ?」「許さない…許サナイ…ユルサナイ……」
 
突然ブツブツ呟き出した親友に背筋が凍り、身体がガクガクっ震えだす。
 
「お前は俺の親友だ…俺だけの親友……誰にも渡さない…渡すものか…!!」
 
瞬間、距離をとっていた筈の親友はいつの間にか目の前に現れ、いきなり顔を両手で掴まれた。
 
「ヒッ…!」「お前は俺だけの親友…だよな?」
 
両手には徐々に力が込められ、爪を立てる親友はギョロリとした目を向けてくる。
 
「なぁ?」「ッ…」
 
この状況を打破するべく、素直に頷くと親友は俺の顔からパッと手を離し、またにっと笑ってみせた。
 
「だよな?」
 
俺は怖さで足が竦み、その場に座り込んだ。
親友は俺に再度手を差し伸べて『じゃあ、一緒に行こうぜ?』と言ってきた。
もはやこれまで……そう思った矢先、親友の手は俺の頭に置かれた。
 
「なーんてなっ!冗談だよ」「えっ?」
 
顔をあげると、親友は笑いながら『脅かして悪かった』と告げ姿を消した。
俺は辺りを見回したが親友の姿は何処にも居らず、静まり返る部屋にはカーテンの隙間から朝日の光が射し込んでいた。
 
「たく、脅かしやがって…!」
 
親友に文句を言いつつ、小さく溜息を吐いた俺は先程まで触れられていた頭に手を置き、笑いながら涙を落とした。
きっと親友は最後に俺を元気づけようとしてやってきたんだろう…。
本当は、誰よりも寂しがりで親友から離れられなかった俺を立ち直らせる為に。
 
「ありがとな…親友」
 
でも。
 
もしあの時、お前に本気で頼まれてたら…俺。

 
「───じゃあ、一緒に逝コウぜ?」「…えっ」





俺だけの親友…だもんな?
 
 
 
 
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