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しおりを挟む事故から数週間後。足の骨折と全身打撲の重傷を負った僕は、見舞いに来ていた彼に車椅子を押して貰い、病院の中庭を散歩していた。
「有難う夢叶!」
「おう……それより体は大丈夫か?」
「うん。暫くは入院だけど、そう長くは掛からないだろうってさ!」
「そうか」
心地良い風が吹いて揺らぐ木漏れ日が僕らに降り注ぐなか、彼は安堵した顔を僕に見せた。久々にみた彼の優しい表情に、ふと昔の記憶が蘇る。
「ふふ。久し振りにみたなぁ……夢叶のその顔」
「は?」
「最近は凄く僕に冷たかったから……」
笑いながら告げると、彼は暫く口を噤んだ。そんな彼から視線を逸らして僕はある疑問を投げ掛ける。
「ねぇ、夢叶。なんで僕を嫌いになったの?」
「……」
「泣き虫でウザかったかな?それとも……」
「違ぇ」
「えっ?」
「別にウザかったなんて思ってねぇし、本気で嫌っていたわけじゃねぇよ」
そう言いながら彼は押していた車椅子を止める。仰ぎ見ると、彼は僕を見降ろしながら告げた。
「ただ、お前と絶交する前からある夢を見るようになって……」
「ある夢?」
「おぅ」
何処か躊躇いがちに僕から視線を逸らすと、彼はまた話を続ける。
「ある時は高い処から。また、ある時は上から物が降ってきたりして、最後はお前が……その、、」
「死ぬ夢……?」
僕が言いにくそうにする彼の言葉を繋ぐと、目元に影を落とした彼は、静かに頷いた。
その光景を何処か他人事の様に見つめていた僕は、彼から視線を外して俯きながら呟く。
「そっかぁ」
「そっかじゃねぇよ……まだ話には続きがあんだよ。」
「続き?」
「あぁ。夢だけなら良かった。それがリアルにさえならなかったらな……」
彼のその言い草に、僕はある事を訊ねる。
「ねぇ夢叶、もしかして事故があった時に呟いてたのってそれのこと……?」
「あっ?」
「意識が無くなる前に聞いたんだ。断片的にしか聞き取れなかったけど、“あの日から”って言ってたから」
「……聞こえてたのかよ、アレ。」
彼は中庭で散歩をしている人々の声に視線を向けた。視線の先には、看護師に連れられた老人が楽しそうに談笑している。
その光景を暫く眺めていると、不意に彼が口を開いた。
「初めは偶然かと思った。夢でみた事あるなぁーって、ただそれだけだった。けど、ある時お前が事故で怪我をする夢をみてな。そうしたらその日にお前がマジで怪我をして……」
「あっ。それって、小学生の頃に僕が塀の上から落ちたやつかな?頭に七針縫う怪我したんだよねー」
「ん、そん時に初めてコレが“予知夢”だと分かったんだ」
彼は仰ぐ僕を見下ろして言う。
その瞳は少し不安そうに揺らいでいた。
「夢で見る光景が現実で起きるし、挙げ句の果てにはお前が死んじまう夢ばから見るわで気が気じゃなかったわ」
「マジか……。夢叶の夢では僕、何回も死んでるんだねハハハッ」
苦笑いを浮かべた僕を溜め息混じりに見つめた彼は、また車椅子を推し進めた。
「だから距離をとってお前を生かしてきた。それなのに、オメェときたら……!!」
ひしひしと背中から感じる怒りを帯びた声色に、僕は負けじと振り向き告げた。
「だ…だって、僕も君が事故で亡くなる夢を見たんだ!!」
「はぁっ!?」
「作り話じゃないから。ホントだよ?」
彼を見つめると、眉間に皺を寄せて怪訝な顔をする彼と目が合った。が、数秒もしない内に平常通りの顔に戻った彼は話を聞いてくれた。
「───で。お前がみた夢ってのが、あン時の事故だったって訳か?」
「うん。夢でみた通りの事故だった」
あのままいけば、確実に彼は死んでいただろう……。
だけど僕が助けた事で彼は死なず、僕も怪我だけで済んだのだと今は思っている。
「僕が助けなかったら、夢叶は壁とトラックに挟まれてペチャンコだったんだよ!」
「グロい話すんじゃねぇよ!ヒーロー気取りかっ!?あぁ?」
怒鳴る夢叶に耳を塞ぎながらゆっくり進む車椅子に持たれ掛かると、彼はまた溜め息を吐いてボソリと言った。
「たくっ……俺を庇ってもう無茶すんなよなぁ!」
睨みながら見下ろす彼に、僕は笑って反論した。
「それはお互い様だろ?普通、階段から落ちた人をキャッチするなんて危ない真似しないよ!」
「ッ……それも知ってたのかよっ」
「うん。ヒーロー気取りはどっちだよ?」
「ハンッ!!言ってろ!」
二人の声は病院の中庭に暫く響き渡っていた。
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