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しおりを挟むとぼとぼ歩く帰り道。町には電灯が点り、会社帰りのサラリーマンや買い物に来た主婦、帰宅途中の学生等が賑やかな商店街を行き交う。そこを通り抜けて住宅街に差し掛かった時、目の前の大きな交差点から突然、彼が現れた。
友達と道草でも食っていたのか、彼は学生服のままズボンのポケットに両手を突っ込み、ショルダーバッグを肩からぶら下げ歩いていた。此方に歩いてくる彼の姿に僕は一瞬立ち止まる。いくら彼とは小学生以来関わりを持たなかったとはいえ、家が近所なのだ。そのうえ、彼の家の二、三件後に僕の家があるから、このまま行くと確実に彼と鉢合わせをしてしまう。どうしたものかと少し頭を悩ませていると、ふとあの悪夢が脳裏を過ぎった。
「えっ……なんで今?」
その矢先、エンジン音が響き渡る。目の前では、彼の背後に軽トラックが近づいて来るのが見えた。
「夢叶!!」
夢の光景がフラッシュバックして嫌な予感がした僕は、すかさず彼の名を叫びながら駆け寄ると彼は此方に気付き、一瞬立ち止まり視線を向けた。しかし、目を見開いた後すぐに顔を逸らして踵を返す。
「待って、夢叶!!」
「チッ……ついてくンじゃねぇよ!」
怒鳴り声を上げながら僕から離れていく彼を必死に追いかけて掴まえた。
「テメッ……離せッ!」
「夢叶、お願いだから待ってって!!」
ガツン!!
一瞬、クラリと視界が歪んだ。彼の腕にしがみつく僕を引き離そうと、彼が僕の顔を思いっきり殴りつけたのだ。あまりの痛みに力が抜けて蹌踉めくと、彼は僕を突き飛ばした。
「ざけんな、クソ野郎!」
「ヴッ……」
殴られた箇所を手で押さえながらしゃがみ込む僕を後目に、彼は悪態を吐き捨てそのまま歩き出す。
「む、夢叶っ、駄目だ……危ないっ!」
「はぁ?お前何言って───」
何とか立ち上がって彼を追いながら警告すると、彼が此方へ振り返える。刹那、軽トラックがクラクションを鳴らし彼に向かって突っ込んできた。
「夢叶ッ……!」
「ッ……!!」
このままだとあの悪夢の様になる。そう思った瞬間、僕は勢いよく駆け出し、渾身の力を込めて思いっ切り彼を突き飛ばした。
突き飛ばされた彼は僕を見つめた。いつもはすぐに逸らされるその瞳は大きく見開き、ただジッと僕を映していた。僕は、そんな彼に心から助けられて良かったと思った。
「まさっ────」
彼が口にした言葉は、迫り来るクラクションによって掻き消されてしまった。
暗闇の中で、ドンッと音がした。
遠くの方でクラクションが鳴り響く。
誰かが僕に声を掛けている。
上手く聞き取れなかったけど、何処か切羽詰まった声だった。
「しっかりしろっ!!……ちくしょうッ……ちくしょうッッ……なんでっ、……そんな、、あの日から………」
断片的に聞こえた言葉は、後悔と悲哀、憤怒のような感情を孕んでいた。目蓋は重たくて開けられず、暗闇の中でそれは響き渡る。意識は段々遠退き、その声すらも聞き取りづらくなった頃、最後に聞こえたのは嗚咽と共に放たれた僕の名前を呼ぶ悲痛な叫び声。
「あ”あ”あ”あ”あ”正夢ッ!!」
それは、階段から落ちた時に聞いた声と同じだった……。
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