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しおりを挟む「あー、さっきは恥ずかしかった……」
午前の授業を終えた頃。僕は昼飯を持ち、屋上へと足を運んだ。中学時代とは違い、班で給食を食べる事が出来なくなった反面、好きな場所で昼食を取れる高校生活は僕にとって非常に嬉しい。如何せん友達があまり居ない僕は、教室にいても一緒に食事をする友達がいないのだ。数少ない友人達は他に先客がいるらしく、皆別々に昼食を取るのが日常茶飯事だから僕はいつも独りで昼食を食べている。
今日は母が作ってくれたお弁当を摘まみながら、心地良く吹く風とぽかぽか陽気の中にいた。屋上は僕の他に誰もいないから居心地は抜群だ。まぁ、“立ち入り禁止”と書かれてある札を無視して入り込んでいるから誰もいないのは当たり前なのだが……。
あまりにも気持ちが良いもので、箸を勧めていた手が止まる。うつらうつらと目蓋が重くなり、お弁当の最中にうたた寝をしてしまった。
「───ヒック……ヒック……」
これはまだ僕が幼い頃。遊んでいる最中に転んで膝を擦りむいた僕は、大粒の涙を流していた。そんな僕を仁王立ちで見つめていた彼は、溜め息を零して声を上げる。
「たくっ、お前はホントに泣き虫だよなぁ……。おい、まさむ!」
「ヒックッ……むとぉ?」
彼に名前を呼ばれて顔を上げると、彼はいつの間にか背中を向けてしゃがんでいた。
「もう泣くなよ。ほら……!」
そう言って僕を背負うと、家まで運んでくれた。僕にはそれが凄く大きく頼もしい背中に思えた。彼はなんだかんだ言っても優しかった。やんちゃくさくて乱暴だけど、でも泣き虫だった僕を一番面倒みてくれた。僕には彼が憧れであり、一番の親友だった……。
「──触んなっ、気持ち悪いンだよ!」
だからあの言葉を言われた時はショックだった。冷たい目を向けられ、手を振り払われて突き飛ばされた。
「もう俺に関わんなっ!絶交だっ!!」
「待ってよ夢斗、ねぇ……!」
ホントに急な出来事だった。学校でいつもの様に声を掛けたらそう言われた。訳を聞こうにも夢叶は聞く耳を持たず、結局その日以来彼と関わることがなくなってしまった……。
───キーンコーンカーンコーン
チャイムの音で目を覚ますと、寝過ぎてしまった事に気付いた。慌てて食べかけのお弁当を片付け、急いで屋上を飛び出す。午後の授業の予鈴が鳴る前にと、階段を駆け下りたその時だった。
「ッ……!?」
階段を下りている最中、僕は勢い余って足を踏み外した。
『しまった!』そう思うが時既に遅く、階段下へと落ちていく。衝撃に絶えようと目を固く瞑った時、誰かが僕の名前を叫んだ気がした。
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