クライウタ

冬生まれ

文字の大きさ
上 下
33 / 42
とある患者の消息

しおりを挟む
その日も彼らは、共同スペースで穏やかに過していた。

珍しく黒髪を馬の尻尾の様に結った雲渡 海斗と仲良く手を繋いでテーブル席の椅子に腰掛けた彼は、目前で同じく座る朝日 登や明星 輝夜と談笑していた。

彼らは、よく此処に集まって話に花を咲かせるのが最近の日課になっているらしい。

たまに何もないスペースを見つめながら、二人の話を聞いている彼に、朝日 登と明星 輝夜はどちらともなく語り出す。

愉しげな雰囲気を察して山並 昴や大空 渉、曉 霞も次々と加われば、其処だけ一段と賑やかになった。

彼らの抱える病は色々と問題が大きかったが、その中心にいる彼のお陰もあるのだろう……彼らは互いに揉める事なく平穏に会話を成り立たせていた。

皆が穏やかに過ごす昼下がりは、普段は忙しなく働く看護師達にも束の間の休息が訪れる。

昔と違い、極度の妄想癖で暴れる事が無くなった朝日 登は、出鱈目ではあるが家族やペットの話を穏やかに語る様になり、すぐにやけを起こして自傷に走っていた明星 輝夜は、肩に掛かる切り揃えられた明るい茶髪を気にしたり、笑うまでに回復した。

前は病室に引き籠もりがちだった雲渡 海斗は、彼から終始離れる事なく、彼の隣で会話の輪に入る様になり、すぐに癇癪を起こして誰彼構わず当たり散らしていた山並 昴は、今ではすっかりまともになって雲渡 海斗の歯止め役となっている。

全てを忘れてしまう恐怖から、人と距離を置くために自ら此処に入った大空 渉は、時々昔を思い出した様に周りに語り出し、普段から聞き手に回っていた曉 霞は、吃音症の恥ずかしさから口を閉ざしていた前とは違い、今では少しずつ拙い言葉で話す様になった。

彼らをここまで変えた彼は、まさに救世主だと看護師達は語った。

そんな事とは露知らず、彼は今日も彼らとの会話を楽しんでいた。

彼にとっても皆にとっても、この時間だけは一番の喜びだった事だろう。

けれども、そんな日々は長く続かなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

一宿一飯の恩義

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 妹のアイミが、一人暮らしの兄の家に泊まりに来た。コンサートで近くを訪れたため、ホテル代わりに利用しようということだった。 兄は条件を付けて、アイミを泊めることにした。 その夜、条件であることを理由に、兄はアイミを抱く。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...