奪ってみてよ、先輩。

25mlのめすふらすこ

文字の大きさ
上 下
44 / 52
12.義妹の誕生日です。

12-1

しおりを挟む
「亜主樹ぃ、もうおれのことは眼中に無いね?」

昼休みを学校の屋上でさっきの授業の分からなかったことを先輩に聞くのと、教科担任の愚痴を言うことに費やしていると栗生先輩がやってきた。

「あ? うざ。」
「酷くない? ねえ、ちよこちゃんも酷いと思うよねえ?」
「くりゅーてめェ鬱陶しさが大地に似てきたな。うぜェ。」
「それはヤなんだけど? そんな事言いながらおれらと一緒に遊んでくれる亜主樹がおれは大好きだよー。」
「……」

にっこにこな笑顔の栗生先輩を前に、あずき先輩の表情は氷点下だ。

「邪魔してごめんて。この前も氷榁の坊ちゃん見て機嫌が悪くなったと思ったら、ふら~っといなくなって帰ってきたらご機嫌なんだもん。何してた?」

私が初雪さんと出かけてた日のこと?
あの日の事とその夜の事を思い出して私の顔はボッて音がしそうな勢いで赤くなる。

「おやおや~?」

それを楽しそうに見る栗生先輩と、ため息をつくあずき先輩。

「……くりゅー。そっから飛び降りてみる? 今なら押してやるけど?」

揺らめく殺気とともに後ろのフェンスを指す先輩。無慈悲。友達なんだよね?

「やめとくよ。ぐちゃぐちゃになっちゃいそうだし。」
「遠慮すんなって。なァ?」

冗談だか本気なんだか分からない言い方に私の方がヒヤヒヤする。なのに栗生先輩はずっと笑ってて、あずき先輩もだけどこの人も大丈夫?

「悪かったって。亜主樹の機嫌損ねたいわけじゃないからさー。ちょっとした冗談。」

亜主樹先輩に蹴られてもなお笑ってる栗生先輩。ほんとにこの人正気なのかな。

「で? 用事ねェなら帰るかそっから落ちろ。」

まだ言うの? 友達なんだよね?

「どうしてもおれを屋上から落としたいみたいな言い方やめてよー。」
「落としてェな。切実に。」
「ごめんてば。用事ならちゃんとあるからさー。」

それを早く言えよ、と大層気だるげにあずき先輩が栗生先輩を見やる。

「もーすぐ冬休みじゃん? 亜主樹んとこの別荘に皆で遊びに行こーよー。おれら高校最後の冬休みだし!」
「やだね。めんどくさ。」
「ノリわっるいなぁ。高校生活もそろそろ終わりなんだよ? 今やれることやんないと!!」
「だるい。夏もそう言って夜な夜な酒飲んで騒いでただけだろーが。勝手にやってろ。」

心底面倒臭そうなあずき先輩。たしかにお酒飲むのはだめだけど……。

「行ってきたら良いじゃないですか。栗生先輩が言うみたいに、高校生でいられるのも残り短いんですし。」
「ちよこちゃんも言うことだし、ね! あと、ちよこちゃんも行くんだよ?」
「え?」
「はァ??」

私以上に理解不能な顔をしたのはあずき先輩だった。

「なんで千夜子が……いや、くりゅー。『皆』って誰。」
「んっとね、おれとー、亜主樹とー、ちよこちゃんとー、大地とー、零緒」
言い終わる前にあずき先輩が舌打ちをした。

「あとアカネ。」
「アカネを巻き込むんじゃねェよ」
「いーじゃん。アカネもたまにはおにーちゃんとどっか行きたいかもよー?」
「どーだか。とにかく俺は行かねェ。」

ちょっと待ってよ。そこになんで私が入ってるのかって話を聞きたいんだけど。

「えー? いいのぉー? おれらが大事な大事なアカネたんにあんな事やこんな事してもさー。」
「やってみろよ。返り討ちにされるだけだろ。」
「お酒とか煙草とか勧めたら手出しちゃうかもね。」
「チッ」

どんどん不機嫌になってくあずき先輩。先輩が言い負かされてるの珍しいから、傍から見てる分には結構面白い。ごめんね。
苛立ったように煙草を取り出して当たり前のように吹かし始めるあずき先輩。ここ学校ですけど。

「めんどくせェな……行きゃいいんだろ? でも千夜子は連れてかねェからな」
「そうですよ。なんで私も行くことになってるんですか。」
「あぁ……それはねぇ、ガラの悪いお兄さんたちがちよこちゃんに会ってみたいって言うからさー。」

ガラの悪いお兄さん?

「あ、結構です。」

当然だと言うように隣で鼻を鳴らすあずき先輩。自分のこと棚に上げすぎですよ。どう考えても貴方も十分「ガラの悪いお兄さん」ですからね?

あの後結局栗生先輩が「連れて来なかったら毎日家に押しかける」とか言って、私が先に折れて、それでもあずき先輩は渋ってたけど最終的には折れてた。
ものすっごい不機嫌になってたけど。

「亜主樹はねー、アカネの事になると弱いんだよー。」

と栗生先輩。お兄ちゃんも大変だなぁ。

栗生先輩は「亜主樹の機嫌取り持っといて」って言ってきたけど断った。自分で損ねた機嫌は自分でどうにかしてもらいたい。
茉白の誕生日とか先輩たちと出かける話とか、今年の冬はゆっくりできなさそうだなぁ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最愛の彼

詩織
恋愛
部長の愛人がバレてた。 彼の言うとおりに従ってるうちに私の中で気持ちが揺れ動く

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

好きだった幼馴染に出会ったらイケメンドクターだった!?

すず。
恋愛
体調を崩してしまった私 社会人 26歳 佐藤鈴音(すずね) 診察室にいた医師は2つ年上の 幼馴染だった!? 診察室に居た医師(鈴音と幼馴染) 内科医 28歳 桐生慶太(けいた) ※お話に出てくるものは全て空想です 現実世界とは何も関係ないです ※治療法、病気知識ほぼなく書かせて頂きます

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...