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9.teller

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普段ならこの時間には見かけない悪友の姿を発見して、おれはその背中に声をかけた。

「亜主樹がこの時間ここにいるって久しぶりじゃない? ちよこちゃんは?」
「呼ばれたから休日は実家に戻るつってすげー機嫌悪そうな顔しながら出てった。」
「亜主樹なんかしたの?」
「してねーよ。」

いやいや手出してるんでしょ。

「それで? ちよこちゃんと遊べないから漁りに来たの? ずっと店の裏しかいなかったのにさ。」
「そのつもりだったけどなんかイマイチ。」

まー、普段ちよこちゃんと、ならね。顔が可愛いから亜主樹が手放そうとしないんだと思ってるけど。
ぱっちりした目とか小さな口とか、小動物みたいでかわいいのに気が強そうな感じの子。

実際、ちよこちゃんはキッパリした子だった。
亜主樹と同棲してたら付き合ってるんだって勘違いしそうなもんだけど、全然そんな風に思ってなさそうだし。
おれは亜主樹のことメンヘラ製造機だと思ってるから、亜主樹に依存しない女の子って珍しくて面白い。
今までの子は皆「言うこと聞くから捨てないで」って感じのばっかだったけど、ちよこちゃんの場合は「あーはいはい、いつものね。とりあえず聞いとけばいいか」ってちょっと面倒臭そうにしてるあたりとか特にね。

煙草を取り出した亜主樹の横から手を出して、無断で1本貰う。こんなことでいちいち目くじらを立てる友人じゃないし。

「くりゅーはいつ来てもここにいるよな。」

収穫が無いと分かるや、店の奥に引っこもうとする悪友の隣を歩く。

「面白いからね。可愛い女の子がいっぱい来るし、喧嘩の話もいっぱい来るし。」

自分で聞いといて、「ふーん」とどうでもよさそうな返事をしてくる。
自分だって、ちょっと前までは喧嘩ばっかりしてたのにさ。

亜主樹とは中学からの仲だ。御曹司の重圧のせいか、当時の亜主樹は荒れに荒れてて毎日どこかで喧嘩の売り買い。おれはその騒ぎが楽しいから、亜主樹に付いて一緒に喧嘩をしていた。
それでもこいつは毎日学校には行ってたけどね。

喧嘩をしなくなったのは高校に進学してから。何を思ったのか、あれほど反発してた親父さんともそれなりの会話をするようになって、こんな店まで建てちゃって。

全部、弟のためだったけど。

表向きは多少荒れなくなった分、髪を染めたりタトゥーを入れたり、色んな女の子と遊ぶようになった。
どっちがいいかとか、おれにはどっちでもいいしどうでもいい。

「せっかく来たんだから、もうちょっと遊べばいいのに。亜主樹が上上がれば盛り上がるよ?」
「俺の場所じゃねーのに上がるわけないじゃん。」

また遠慮しちゃって。
気だるそうにソファに深く座る亜主樹。表の喧騒と裏腹に、ここは静寂に包まれた場所。今のところは。

「でもさー、最初は亜主樹がトップだったわけじゃん? 居心地良いなーとか、景色良いなーとか思わなかったの?」

『RAVEN』を建ててしばらくの間、頂点に君臨して熱気に溢れるフロアを見下ろしていたのは亜主樹だった。羨望、憧憬、畏怖、嫉妬、数多の視線を浴びるそこで、亜主樹はいつも退屈そうにしていたけど。
ま、喧嘩したり散々暴れて警察のお世話にもなってたのが、ソファに座って高い所から見下ろしてるだけってのは確かに退屈かもね。
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