奪ってみてよ、先輩。

25mlのめすふらすこ

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8.久しぶりに戻りました。

8-3

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残念です、と続けたいところ。そんな私を見て嘲るように鼻で笑うと、父は茉白の背中に手を添えて食堂へ向かう。
その後ろ姿に家のあちこちに置いてある水晶原石の置物を全部投げつけたいと考えながら、私も食堂へ向かった。
茉白は父と義母と私が仲良くなるのを望んでいるんだろうけれど、それを叶えてあげることはできない。

おそらくいつもなら家族団欒な食卓であろう場所は、重たい沈黙に晒されている。
時折茉白が困ったような笑顔で話を振るけど、会話が続くわけがなくて。

ねぇ、いつまで何も言わない気でいるの? 茉白の誕生日で話があるんでしょう?

その気持ちを込めて何度か父を見ても、話し出す素振りは一向にない。
何のために呼び出したんだか、心の中でため息をついて、部屋に戻ろうと席を立つ。

「来月24日の日曜日、この子の誕生会があることは分かっているだろう。空けておきなさい。」
「覚えておきます。」

私には目もくれずに言ったであろう父を、私も同じように見ずに返した。

久しぶりに自分の部屋に来た私は、着替えを準備してすぐお風呂に入った。
広い天井に泳げそうな程大きな湯船。いつになってもこの浴室は落ち着かない。
広すぎるが故の生活感の無さが、なんだか窮屈だった。お母さんがまだ元気だった時、一緒に入ってた頃は幾分かよかったけど。

「ふぅ……」

凪いでいた水面が揺れる。湯船を出た私は、頭からシャワーを浴びて浴室を後にする。
家を出てまだ半年と少ししか経ってないのに、他人の家に来ているような気持ちだ。
現在進行形で居候しているまったく赤の他人のあずき先輩の家の方が住みやすいっていうのは、なんともおかしな話。

服を着ながら、そういえば先輩は何してるだろうかと考える。

ほとんどと言っていいほどこの時間は毎日勉強教えてもらうのとかで顔を付き合わせていたから、今一緒にいないのがどこか不思議だった。
あの先輩のことだから、どうせ寝るかパソコンで何かしてるか女の子と遊んでるだろう。

濡れた髪を拭きながら、部屋に戻る。もう特にやることがないな。
寝れば良いんだろうけど、椅子に座ってぼんやりしていると、扉をノックする音が聞こえた。

「茉白。」
「姉さまこんばんは。姉さまとお話しようと思ったのだけど……」

お風呂から上がった私の格好を見て、茉白が眉を下げる。

「もう寝るところだったかしら?」
「大丈夫よ。」

茉白を部屋に招いてソファに座る。

「あのね、姉さまに家に帰って来るように言ってって頼んだのは私なの。」

そういうわけか。あれ以上話すことが無いなら、メールで済ませればいいのにと思っていた。茉白の頼みなら父が私を呼ぶのもうなずける。
私はてっきり、例年通り準備を手伝わされると思っていた。でも今年は空けとけとしか言われてないから、もう関わるなってこと?

「姉さまとは、初雪さんとのお食事の時ではあまり話さないから……」

でしょうね。私自身話そうとしないし、茉白と初雪さんの2人で会話が弾んでいるんだから。
茉白のことは、呆れこそすれど別に憎んでいるわけじゃない。どうかと思っているのは初雪さんの方だ。
心変わりしたならその旨を伝えて、婚約のことだって変えてくれればいいのに。私はいつまであの人の婚約者なんだろう。
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