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4.仲良くなりました(?)
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毎月の決まりである初雪さんとの会合。
いつもなら許嫁と義妹の関係に眉をひそめる私は、初めて他のことを考えながら食事をしていた。
あのクズ男の典型例みたいな先輩と知り合ってからひと月が過ぎようかという今日この頃。それなりの頻度で私はあの人に呼び出されている。少なければ週に1回、多いと4回。
あの高級マンションに行くのに慣れてきている自分がいる。
あずき先輩と関係を持ってから初めて初雪さんに会った今日。
もっと罪悪感を覚えるかと思ったけどそうでもなくて。
初雪さんが私に対してそれなりの優しさを示していたらまた違ったのだろうけど。
この人は目の前の許嫁が処女だろうがなんだろうがどうでもよくて、それより隣の女の子の話の方がよっぽど重要なんだろう。
若干寝不足の頭で考え事をしていると、ふいに凛々しい顔がこちらへ向けられた。
「おい、聞いているのか?」
「へ?」
何を? 茉白の話?
「すみません。少し考え事をしていて。」
「いい度胸だな。まぁいい。今度の会談だが、お前は学業で忙しいだろうから茉白を同席させる。両親にはもう了承を得ている。」
「そうですか。」
私がそれだけ返すと、初雪さんは怪訝そうな顔をした。
古い氷榁と付き合いである企業の社長との会談に初雪さんが参加するということは、氷榁の正式な跡継ぎであると向こうに認知してもらうこと。
そこに同席するというのは、彼の婚約者として同じように認知してもらうということになる。それを「学業で忙しいから」なんて理由で茉白を代役に立てるあたり、浅いにも程がある。
でも今私はそれどころじゃないの。
どこかの誰かさんのせいで完全に睡眠の質が落ちて、成績維持とアルバイトの両立もあって寝不足が続いてる。
どこかの誰かさんのせいで。
あずき先輩も紅家の跡継ぎなら、初雪さんみたいに色々とやらなきゃいけない事が多いはずなんじゃないの?
私から見たあの人はいつも遊んでるとしか思えない。そのくせ高級マンションに1人で住んでるし。あの人はよく分からない。
食事も終わり、氷榁家の人の送迎をいつもの事のように断った私は、1人でレストランを後にする。
「千夜子」
後ろから声をかけられて、見れば初雪さんが立っていて。珍しいな、と私は立ち止まりあまり期待せずに「どうしました?」と返す。
「少し顔色が悪いんじゃないのか?」
かけられた言葉が意外で、私はつい初雪さんをじっと見つめてしまった。
そんな事を言われたのは初めてかもしれない。
「最近寝不足が続いてるだけなので……お気遣いいただきありがとうございます。」
無難な笑顔を返しておけば大丈夫だろう。
案の定初雪さんは「そうか」とだけ言い、それ以上は追及してこない。わざわざそれを聞くためだけに来たの?
疑問に思う私に「では、また来月」と初雪さんは戻ってしまった。
本当にそれだけを聞きに来たみたい。いや、何か確かめようとしたけれどやめた、ってところかも。確かめたかったのはさっきの件かな。
私があっさり引き下がったのが気になった?
今私はとにかく帰って寝たかった。バイトの入ってない休日の方が少ないから、今日のうちにたくさん寝ておこう。
来週何回呼び出されるのか分かんないし……。
欠伸を噛み殺しながら大通りから人通りの少ない方へ曲がる。
落とした視線の先から、ふと甘い煙草の匂いが鼻孔を掠め。少し顔を上げれば、赤錆色の頭髪の美形。
煙草を片手にスタイルの良い綺麗な女の人の腰を抱きながら歩く。
ただそれだけ。
すれ違う時に一瞬、闇色の両眼と目が合った気がしたけれど。
私は気づかないフリをした。
いつもなら許嫁と義妹の関係に眉をひそめる私は、初めて他のことを考えながら食事をしていた。
あのクズ男の典型例みたいな先輩と知り合ってからひと月が過ぎようかという今日この頃。それなりの頻度で私はあの人に呼び出されている。少なければ週に1回、多いと4回。
あの高級マンションに行くのに慣れてきている自分がいる。
あずき先輩と関係を持ってから初めて初雪さんに会った今日。
もっと罪悪感を覚えるかと思ったけどそうでもなくて。
初雪さんが私に対してそれなりの優しさを示していたらまた違ったのだろうけど。
この人は目の前の許嫁が処女だろうがなんだろうがどうでもよくて、それより隣の女の子の話の方がよっぽど重要なんだろう。
若干寝不足の頭で考え事をしていると、ふいに凛々しい顔がこちらへ向けられた。
「おい、聞いているのか?」
「へ?」
何を? 茉白の話?
「すみません。少し考え事をしていて。」
「いい度胸だな。まぁいい。今度の会談だが、お前は学業で忙しいだろうから茉白を同席させる。両親にはもう了承を得ている。」
「そうですか。」
私がそれだけ返すと、初雪さんは怪訝そうな顔をした。
古い氷榁と付き合いである企業の社長との会談に初雪さんが参加するということは、氷榁の正式な跡継ぎであると向こうに認知してもらうこと。
そこに同席するというのは、彼の婚約者として同じように認知してもらうということになる。それを「学業で忙しいから」なんて理由で茉白を代役に立てるあたり、浅いにも程がある。
でも今私はそれどころじゃないの。
どこかの誰かさんのせいで完全に睡眠の質が落ちて、成績維持とアルバイトの両立もあって寝不足が続いてる。
どこかの誰かさんのせいで。
あずき先輩も紅家の跡継ぎなら、初雪さんみたいに色々とやらなきゃいけない事が多いはずなんじゃないの?
私から見たあの人はいつも遊んでるとしか思えない。そのくせ高級マンションに1人で住んでるし。あの人はよく分からない。
食事も終わり、氷榁家の人の送迎をいつもの事のように断った私は、1人でレストランを後にする。
「千夜子」
後ろから声をかけられて、見れば初雪さんが立っていて。珍しいな、と私は立ち止まりあまり期待せずに「どうしました?」と返す。
「少し顔色が悪いんじゃないのか?」
かけられた言葉が意外で、私はつい初雪さんをじっと見つめてしまった。
そんな事を言われたのは初めてかもしれない。
「最近寝不足が続いてるだけなので……お気遣いいただきありがとうございます。」
無難な笑顔を返しておけば大丈夫だろう。
案の定初雪さんは「そうか」とだけ言い、それ以上は追及してこない。わざわざそれを聞くためだけに来たの?
疑問に思う私に「では、また来月」と初雪さんは戻ってしまった。
本当にそれだけを聞きに来たみたい。いや、何か確かめようとしたけれどやめた、ってところかも。確かめたかったのはさっきの件かな。
私があっさり引き下がったのが気になった?
今私はとにかく帰って寝たかった。バイトの入ってない休日の方が少ないから、今日のうちにたくさん寝ておこう。
来週何回呼び出されるのか分かんないし……。
欠伸を噛み殺しながら大通りから人通りの少ない方へ曲がる。
落とした視線の先から、ふと甘い煙草の匂いが鼻孔を掠め。少し顔を上げれば、赤錆色の頭髪の美形。
煙草を片手にスタイルの良い綺麗な女の人の腰を抱きながら歩く。
ただそれだけ。
すれ違う時に一瞬、闇色の両眼と目が合った気がしたけれど。
私は気づかないフリをした。
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