奪ってみてよ、先輩。

25mlのめすふらすこ

文字の大きさ
上 下
15 / 52
4.仲良くなりました(?)

4-1

しおりを挟む
毎月の決まりである初雪さんとの会合。
いつもなら許嫁と義妹の関係に眉をひそめる私は、初めて他のことを考えながら食事をしていた。

あのクズ男の典型例みたいな先輩と知り合ってからひと月が過ぎようかという今日この頃。それなりの頻度で私はあの人に呼び出されている。少なければ週に1回、多いと4回。

あの高級マンションに行くのに慣れてきている自分がいる。

あずき先輩と関係を持ってから初めて初雪さんに会った今日。
もっと罪悪感を覚えるかと思ったけどそうでもなくて。
初雪さんが私に対してそれなりの優しさを示していたらまた違ったのだろうけど。

この人は目の前の許嫁が処女だろうがなんだろうがどうでもよくて、それより隣の女の子の話の方がよっぽど重要なんだろう。
若干寝不足の頭で考え事をしていると、ふいに凛々しい顔がこちらへ向けられた。

「おい、聞いているのか?」
「へ?」

何を? 茉白の話?

「すみません。少し考え事をしていて。」
「いい度胸だな。まぁいい。今度の会談だが、お前は学業で忙しいだろうから茉白を同席させる。両親にはもう了承を得ている。」
「そうですか。」

私がそれだけ返すと、初雪さんは怪訝そうな顔をした。

古い氷榁と付き合いである企業の社長との会談に初雪さんが参加するということは、氷榁の正式な跡継ぎであると向こうに認知してもらうこと。
そこに同席するというのは、彼の婚約者として同じように認知してもらうということになる。それを「学業で忙しいから」なんて理由で茉白を代役に立てるあたり、浅いにも程がある。

でも今私はそれどころじゃないの。

どこかの誰かさんのせいで完全に睡眠の質が落ちて、成績維持とアルバイトの両立もあって寝不足が続いてる。

どこかの誰かさんのせいで。

あずき先輩も紅家の跡継ぎなら、初雪さんみたいに色々とやらなきゃいけない事が多いはずなんじゃないの?
私から見たあの人はいつも遊んでるとしか思えない。そのくせ高級マンションに1人で住んでるし。あの人はよく分からない。

食事も終わり、氷榁家の人の送迎をいつもの事のように断った私は、1人でレストランを後にする。

「千夜子」

後ろから声をかけられて、見れば初雪さんが立っていて。珍しいな、と私は立ち止まりあまり期待せずに「どうしました?」と返す。

「少し顔色が悪いんじゃないのか?」

かけられた言葉が意外で、私はつい初雪さんをじっと見つめてしまった。

そんな事を言われたのは初めてかもしれない。

「最近寝不足が続いてるだけなので……お気遣いいただきありがとうございます。」

無難な笑顔を返しておけば大丈夫だろう。
案の定初雪さんは「そうか」とだけ言い、それ以上は追及してこない。わざわざそれを聞くためだけに来たの?

疑問に思う私に「では、また来月」と初雪さんは戻ってしまった。
本当にそれだけを聞きに来たみたい。いや、何か確かめようとしたけれどやめた、ってところかも。確かめたかったのはさっきの件かな。

私があっさり引き下がったのが気になった?

今私はとにかく帰って寝たかった。バイトの入ってない休日の方が少ないから、今日のうちにたくさん寝ておこう。
来週何回呼び出されるのか分かんないし……。

欠伸を噛み殺しながら大通りから人通りの少ない方へ曲がる。

落とした視線の先から、ふと甘い煙草の匂いが鼻孔を掠め。少し顔を上げれば、赤錆色の頭髪の美形。

煙草を片手にスタイルの良い綺麗な女の人の腰を抱きながら歩く。

ただそれだけ。

すれ違う時に一瞬、闇色の両眼と目が合った気がしたけれど。

私は気づかないフリをした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

処理中です...