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旦那親戚の持ち家
どデカいG現れる
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結局、人間というのは順応性の高い生き物なのである。それを身をもって私は自覚した。
相変わらず夜中のドラの音と読経の声で目が覚める。それが毎日午前2時と定期的に起こっていると呆れる事に「はいはい、毎晩お疲れ様です」くらいにしか思わなくなるのである。
慣れである。
と思うのだが、もしかしたら私個人の性格に起因しているのかもしれない。
もしかしたら新生児を育てるという事に一杯一杯になっていて、優先順位的に自動的に下位に押し下げられたのかもしれない。私の赤ちゃんは育てにくいタイプで、いつも泣いていて抱っこが必要な子供だった。
「赤ちゃんはみんなこんな感じよ~大丈夫!」と言って、私が歯医者に行ってる間に赤ちゃんを預かってくたのは大らかな義母。だが3回の預かりの後「この子ずっと泣いてて寝かせられない、無理」と言いギブアップした。そして預かってくれなくなった。
夫は休みの日の日中は家に居ない派にジョブチェンした。少しでも家事をするためにおんぶ紐を買ったが、それを使うのを赤ちゃんは死ぬほど嫌がり1度もおんぶできないままだった。寝不足と疲れで私はフラフラだった。
だから私自身は読経の音が聞こえても、2階がうるさいアパートの1階に住んでいるくらいの気持ちで過ごしていた。
特に子供に悪さをするわけでもないし、猫にちょっかいをかけてくるわけでもない。夫に何もしないのは、この家で生まれ育ったという話から、ある意味既に実証済みである。
私は一応、読経の声が聞こえてくるタイミングでハッと目覚める。そしてうんざりしながら「あぁ、起きちゃった。コーヒーでも飲もうっと」と起き出して、コーヒー飲んでテレビを付けてスカパーを見る。この時になぜか赤ちゃんが起きないのは確定なので、逆に1人の時間をのんびり過ごす時間になっていった。
その夜もハッとして目が覚めた。隣の部屋から夫のいびきが聞こえる。それ以外は静かな室内で(あぁ、今から始まるのね・・・)と仕方なしに起き上がった。いつも通りコーヒー飲むためにキッチンに行こうとした時、横でカサッと乾いた音がした。
私は見た。
自分の寝ていた一番近くの横の柱に大きなゴキブリがいた。
普通に大きなゴキブリというと3~4センチくらいじゃないかと思う。そしてウチでは猫が8匹いるのだから、そんなゴキブリがいれば退屈している猫たちの目が一斉に煌めく。猫にとって大きなゴキブリは手頃な獲物のサイズだ。
だがそのゴキブリは予想を遥かに超えて大きかった。
頭からお尻まで1m以上ある。触覚も長くで2mはありそうだった。
本当に恐ろしい時には声も出せなくなるのである。
私は悲鳴もあげられずその場に硬直した。脳が完全に考えを停止した。私は硬直したままゴキブリを見ていた。ゴキブリは触角を忙しく動かしながらじっとしていた。
触覚が固まっている私の腕に当たりそうで気持ち悪いを通り越して恐ろしい。時々、柱に捕まっているために足の位置を直していて、それが木の柱に引っかかりカサっと音がする。多分羽を広げて飛べば工場用扇風機のような音と風が来るだろう。脳がぼんやりそんなことを思いついてしまい、全身の鳥肌が思い出したようにざっと立った。
夫は隣の部屋。いびきがひどくて赤ちゃんを起こしてしまうし私も眠れなくなるし、寝れない横でグースカ寝ている姿を見るのは腹立たしいを通り越して悲しくなる。
夫には「家でくつろげないだろうから夫の部屋を作ったらいい」と言いくるめて、隣の部屋を夫の個人の部屋にした。事が起こったのは部屋を別にした後だった。
そして普通サイズのゴキブリさえ駆除を私に任せるくらい虫が苦手だから、コレに関しては全く助けにならない。見たら多分妻と娘を置いて裸足で遥か彼方まで駆けていくだろう。
いやいや、そういう問題ではない。そもそもコレが存在するのはフィクションの世界だけなのだ。巨体なトンボやムカデが闊歩していた恐竜時代なら巨大ゴキブリがいたかもしれないが。流石にこれは現実ではない。
とは言え、それはあまりにリアルな存在感だった。
赤ちゃんとゴキブリの間には私がいるから大丈夫。何がどう大丈夫なのかは果てしなく謎なのだが、多分大丈夫。万が一ゴキブリが赤ちゃん目がけて飛んできたら全力で盾になろう。猫たちは私より俊敏だから多分大丈夫。
そう考えている間も視線はゴキブリから外せなかった。視線を外した瞬間、動き出しそうで怖かった。シーンとした薄暗い部屋の中でゴキブリを凝視し続けた。カサッ、カサッと足の位置を直す音が聞こえる。
どのくらい見ていたのか判らない。多分10分は経ってないと思う。果てしない時間に思えた突然、ゴキブリが薄くなった。厚みが薄くなったのではなく、存在が薄くなった。色彩が薄れて、輪郭がぼやけた。姿の現実味が薄れたと同時に触覚が動く音、足が動く音も小さくなった。1分くらいの間にゆっくりとゴキブリは空間に溶けていった。溶けて消えていったゴキブリの後には柱の木目が見えるのみ。しばらく私は木目を凝視した。
大丈夫。
そう思い、ほっとした途端に汗が全身から吹き出した。心臓がバクバク鳴り全身に震えが走った。
そして思い出したかのようにドラの叩く音と読経が始まっていた。こちらはゴキブリとは入れ替わりだったのだろう。だんだん音がはっきりとしてきた。
一難去ってまた一難。
とはいえこちらの難は通常運転なのである。1mのゴキブリに比べれば100倍マシ。
そしてこの後からだんだんと我が家の心霊現象の雲行きが怪しくなっていったのだった。
相変わらず夜中のドラの音と読経の声で目が覚める。それが毎日午前2時と定期的に起こっていると呆れる事に「はいはい、毎晩お疲れ様です」くらいにしか思わなくなるのである。
慣れである。
と思うのだが、もしかしたら私個人の性格に起因しているのかもしれない。
もしかしたら新生児を育てるという事に一杯一杯になっていて、優先順位的に自動的に下位に押し下げられたのかもしれない。私の赤ちゃんは育てにくいタイプで、いつも泣いていて抱っこが必要な子供だった。
「赤ちゃんはみんなこんな感じよ~大丈夫!」と言って、私が歯医者に行ってる間に赤ちゃんを預かってくたのは大らかな義母。だが3回の預かりの後「この子ずっと泣いてて寝かせられない、無理」と言いギブアップした。そして預かってくれなくなった。
夫は休みの日の日中は家に居ない派にジョブチェンした。少しでも家事をするためにおんぶ紐を買ったが、それを使うのを赤ちゃんは死ぬほど嫌がり1度もおんぶできないままだった。寝不足と疲れで私はフラフラだった。
だから私自身は読経の音が聞こえても、2階がうるさいアパートの1階に住んでいるくらいの気持ちで過ごしていた。
特に子供に悪さをするわけでもないし、猫にちょっかいをかけてくるわけでもない。夫に何もしないのは、この家で生まれ育ったという話から、ある意味既に実証済みである。
私は一応、読経の声が聞こえてくるタイミングでハッと目覚める。そしてうんざりしながら「あぁ、起きちゃった。コーヒーでも飲もうっと」と起き出して、コーヒー飲んでテレビを付けてスカパーを見る。この時になぜか赤ちゃんが起きないのは確定なので、逆に1人の時間をのんびり過ごす時間になっていった。
その夜もハッとして目が覚めた。隣の部屋から夫のいびきが聞こえる。それ以外は静かな室内で(あぁ、今から始まるのね・・・)と仕方なしに起き上がった。いつも通りコーヒー飲むためにキッチンに行こうとした時、横でカサッと乾いた音がした。
私は見た。
自分の寝ていた一番近くの横の柱に大きなゴキブリがいた。
普通に大きなゴキブリというと3~4センチくらいじゃないかと思う。そしてウチでは猫が8匹いるのだから、そんなゴキブリがいれば退屈している猫たちの目が一斉に煌めく。猫にとって大きなゴキブリは手頃な獲物のサイズだ。
だがそのゴキブリは予想を遥かに超えて大きかった。
頭からお尻まで1m以上ある。触覚も長くで2mはありそうだった。
本当に恐ろしい時には声も出せなくなるのである。
私は悲鳴もあげられずその場に硬直した。脳が完全に考えを停止した。私は硬直したままゴキブリを見ていた。ゴキブリは触角を忙しく動かしながらじっとしていた。
触覚が固まっている私の腕に当たりそうで気持ち悪いを通り越して恐ろしい。時々、柱に捕まっているために足の位置を直していて、それが木の柱に引っかかりカサっと音がする。多分羽を広げて飛べば工場用扇風機のような音と風が来るだろう。脳がぼんやりそんなことを思いついてしまい、全身の鳥肌が思い出したようにざっと立った。
夫は隣の部屋。いびきがひどくて赤ちゃんを起こしてしまうし私も眠れなくなるし、寝れない横でグースカ寝ている姿を見るのは腹立たしいを通り越して悲しくなる。
夫には「家でくつろげないだろうから夫の部屋を作ったらいい」と言いくるめて、隣の部屋を夫の個人の部屋にした。事が起こったのは部屋を別にした後だった。
そして普通サイズのゴキブリさえ駆除を私に任せるくらい虫が苦手だから、コレに関しては全く助けにならない。見たら多分妻と娘を置いて裸足で遥か彼方まで駆けていくだろう。
いやいや、そういう問題ではない。そもそもコレが存在するのはフィクションの世界だけなのだ。巨体なトンボやムカデが闊歩していた恐竜時代なら巨大ゴキブリがいたかもしれないが。流石にこれは現実ではない。
とは言え、それはあまりにリアルな存在感だった。
赤ちゃんとゴキブリの間には私がいるから大丈夫。何がどう大丈夫なのかは果てしなく謎なのだが、多分大丈夫。万が一ゴキブリが赤ちゃん目がけて飛んできたら全力で盾になろう。猫たちは私より俊敏だから多分大丈夫。
そう考えている間も視線はゴキブリから外せなかった。視線を外した瞬間、動き出しそうで怖かった。シーンとした薄暗い部屋の中でゴキブリを凝視し続けた。カサッ、カサッと足の位置を直す音が聞こえる。
どのくらい見ていたのか判らない。多分10分は経ってないと思う。果てしない時間に思えた突然、ゴキブリが薄くなった。厚みが薄くなったのではなく、存在が薄くなった。色彩が薄れて、輪郭がぼやけた。姿の現実味が薄れたと同時に触覚が動く音、足が動く音も小さくなった。1分くらいの間にゆっくりとゴキブリは空間に溶けていった。溶けて消えていったゴキブリの後には柱の木目が見えるのみ。しばらく私は木目を凝視した。
大丈夫。
そう思い、ほっとした途端に汗が全身から吹き出した。心臓がバクバク鳴り全身に震えが走った。
そして思い出したかのようにドラの叩く音と読経が始まっていた。こちらはゴキブリとは入れ替わりだったのだろう。だんだん音がはっきりとしてきた。
一難去ってまた一難。
とはいえこちらの難は通常運転なのである。1mのゴキブリに比べれば100倍マシ。
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