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第5章*恋人の通る道

60・アニエス伯爵家②

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「いやね、本当にマクシミリアンったら神経質なのはいいのだけど、気にしすぎてデリカシーなくて……」

 メアリーはルーナたちを客間に連れていきながら、ほう、とため息をついた。よく喋る明るい女性だ。
 対してマクシミリアンはいたたまれなさそうにしている。

 (可哀想に)

 同情はするものの、ルーナはメアリーから聞くマクシミリアンの話に内心ワクワクしていた。

「ようやく帰ってきたか。マクシミリアン」
 
 客間にたどり着くと、そこには貫禄のある50歳くらいの男性が椅子に座って待っていた。

「……お久しぶりです、父上」

 マクシミリアンの言葉に、この男性がマクシミリアンの父親なのだとルーナは気づく。
 そう思ってみてみれば、確かにマクシミリアンともメアリーとも、目元の印象がよく似ていた。
 アニエス伯爵はルーナに視線を向けた。

「そちらのお嬢さんは……」

 ルーナが挨拶しようと口を開く前に、メアリーがルーナの方を掴んだ。

「わっ」
 
「マクシミリアンの恋人なんですって! お父様!」

 とても楽しそうに紹介してくれる。
 アニエス伯爵は、わなわなと手をふるわせていた。

 (え、もしかして怒られる……?)

 一瞬ルーナは身構えてしまう。だが、それはどうやら杞憂だったようだ。
 
「おお……。ようやくか……。お前にも春が……」

 アニエス伯爵は、酷く感動した様子でルーナを見つめていた。
 歓迎してくれるのは非常にありがたいのだが、目の前でアニエス伯爵が目をうるませてきたのには、さすがにルーナも戸惑ってしまう。

「ありがとう……。お嬢さん……」

 (マクシミリアンって、めちゃくちゃ心配されていたのでは……?)

 特に恋愛関係で家族に多大なる心配をかけていそうだ……。

 
*****


 マクシミリアンの母親も客間にやってきて、その日は盛大な食事でルーナたちをもてなしてくれた。
 気がつけば日も暮れて、窓の外はすっかり夕方になってしまっている。

「すみません、長々とお邪魔して……。私、そろそろお暇しますね」

 マクシミリアンに誘われたからここまで着いてきたものの、さすがにお屋敷に泊まるわけには行かないだろう。
 適当に近くの宿屋でも探そうとルーナが席を立つと、何故かアニエス家の全員が驚いたように目を丸くしていた。

「……な、何故ですか」

 マクシミリアンが静かに聞いてくる。
 少し動揺しているように感じるのは、ルーナの気のせいだろうか。

「え、いや、久しぶりの家族団欒を私が邪魔するわけにはいかないでしょう?」

 昼間からかなりの時間、アニエス家に居座ってしまっていた。
 マクシミリアンは5年ぶりの帰省なのだから、家族とつもる話がたくさんあるだろうし、いくら恋人とはいえ他人ルーナがいては話しにくいこともあるだろう。
 ルーナがそういうと、マクシミリアンははぁとため息を吐き出した。自分の意図が伝わっていなくて落胆するような、そんな顔をしている。

 (なんで?)

「ルーナさん、私はあなたを宿屋に泊まらせるつもりで連れてきたわけではありませんよ」

「……というと?」

「はなから、あなたがうちに泊まることを想定していたんです」

「……っ」
 
 ストレートに言われて、ルーナはさすがに言葉を詰まらせた。

「あなたが嫌でなければ、泊まっていきませんか」

 マクシミリアンもどうやら恥ずかしいらしい。
 そらした顔と耳の端が赤い。
 ルーナはアニエス家の人達がにやにやとこちらを見ていることに気づいて、いたたまれなくなって下を向いた。

「はい……。お願いします」

 (きっと、私の顔も赤い)
 
 
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