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第4章*想いの糸は絡まり合う
54・救いの主はいつも
しおりを挟むパリンとガラスが割れるような音が、小さくルーナの耳へ届いた。
はっと顔を上げると、部屋の壁がまるでガラスのようにひび割れている。
「ルーナさん!」
先程よりもはっきりと、自分の名前を呼ぶ声がして、ルーナの心に一筋の光が差したようだった。
「マクシミリアン……!」
ルーナが声の主の名を口にするとほぼ同時、割れた壁の隙間から見慣れた緑がかった黒髪の男が姿を現した。
マクシミリアンだ。彼の姿を見た途端、涙が出そうになるほどの安心を感じてしまった。
マクシミリアンは肩にかかったガラス片を軽く手で払いのけると、アステロッドを強く見据えた。
「アステロッド様、ルーナさんを返してください」
(あれ? ていうか、なんでそんなに傷だらけ……?)
よくよくマクシミリアンの姿を見てみると、昼間は綺麗に整えられていたはずの執務服はよれて、ところどころ擦り傷のようなものができていた。
痛々しくて、ルーナは思わず顔を歪めてしまう。
「侍従長殿……。どうやってこの空間にはいってきたんだ? ここ、魔法で結界を貼ってるんだけど?」
アステロッドは立ち上がると、ルーナを隠すように前に立った。
傷だらけのマクシミリアンに、訝しげな様子でアステロッドが眉をひそめる。
「ハイリ殿下から、お借りしました。見覚えがありませんか?」
そう言うと、マクシミリアンは懐から小さな宝石のついたネックレスを取り出した。
小ぶりだが、深い海の底のような美しい青の宝石だ。
それを見て、アステロッドは苦々しそうな表情を見せる。
「ち……っ。まだ持ってたのか、ハイリのやつ……」
吐き捨てるようにアステロッドが言った。
(この宝石、何か特別なの?)
「それは……?」
普通のネックレスのように見えるが……。そんなに特殊なものなのだろうか。
ルーナが不思議に思って尋ねると、アステロッドではなくマクシミリアンが答えた。
「アステロッド様の魔法結界を無効化する、特殊な宝石だそうですよ。」
(なるほど。そりゃすごい)
「俺が昔、殿下にあげたんだよ。俺の隠れ家へ、自由に出入りできるようにね」
諦めたのか、アステロッドがちらとルーナの方へ視線を投げて補足してくれる。
(そういえば、王子とアステロッドってゲームでも仲良かったっけ)
現実では2人が仲良くしているところをルーナはあまり見た覚えはないが、隠れ家に王子を呼ぶくらいだ。ゲームでなくても王子とアステロッドは仲がいいのだろうと察せられて、こんな状況だというのに微笑ましくなる。
「というか、それ。使い方わかってる? 普通に使えば、こんなふうに結界を無理にこじ開けるようなことにはならないはずだけど?」
「どういうことです? 殿下からは、強い気持ちを込めれば発動すると聞きましたが?」
「……ちっ。それだけ強い気持ちでルーナを探してたってことか……?」
(? どういうこと?)
アステロッドが何やらブツブツ言っているが、ルーナには意味がよく分からなかった。
「それはともかく……。アステロッド様、ルーナさんは返して貰います」
マクシミリアンはアステロッドを真っ直ぐに見つめると、ゆっくりとルーナたちの方へ近づいてくる。
「あーあ……。本当に嫌なやつだなぁ。侍従長殿は」
アステロッドはマクシミリアンを牽制するように、持っていたダガーを握り直した。そのまま構える。
「死ねよ」
一言、そう呟くとアステロッドはマクシミリアンに向かって一気に距離を詰めた。
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