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第4章*想いの糸は絡まり合う
46・魔法使いは傷心中(ほんとかよ)
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アステロッドが、ヤンデレバッドエンドを多数抱えている問題攻略キャラであったということを。
ルーナは己の陥ってしまった状況に、泣きそうな面持ちで息を吐き出した。
ちらりと、視線を下げる。
手首には、華奢なデザインの手枷。
一見、ブレスレットに見えなくもない。手枷から伸びる鎖さえなければ。
じゃらりと音を立てる鎖の先を辿れば、檻の扉に繋がっていた。
(まじでなんでこうなった)
分からない。
ルーナは頭を抱えるしかなかった。
アステロッドが転移の魔法を使って、視界が一瞬で白くなり……。
気がついたらここにいた。
まるで、鳥かごのような狭い檻の中に。
豪華なドレス姿で。
(まったく状況が理解できない)
冷たい格子の内からしか周囲の様子を伺えないが、どうやらどこかの部屋の中らしかった。
ソファや小さな窓もあり、普通の一室のように思える。
この巨大な檻さえなければ。
(泣きたい)
一瞬での移動は、まぁいいだろう。
ドレスへの早着替えも、手枷をはめられ檻に繋がれた状態も、まぁいい。
すべては魔法のなせる技だ。正直何が起こっても不思議ではない。
解せないのは、この状況だ。
(これじゃあまるで、囚われのお姫様)
なぜこんなことになっているのか、ルーナにはわけが分からなかった。
「ルーナ」
名前を呼ばれて顔を上げる。
気づけば檻の外に無表情のアステロッドが立っていて、ルーナをじっと見つめていた。
「アステロッド……!」
反射的に名前を呼び返して、ルーナは立ち上がる。
鳥かごのような檻の柵を握り、可能な限りアステロッドに近づいた。
「何考えてるのよ! ここから出して!」
「それは無理な相談だね、ルーナ」
「な……」
静かに歩み寄ってきたアステロッドは柵の間に手を差し入れ、ルーナの顎を軽く持ち上げた。
見上げたアステロッドの瞳が酷く澱んでいる気がして、ルーナはこくりと唾を飲み込む。
しかし……。
「俺はね、今傷心中なんだよ」
「……はぁ?」
聞こえてきたアステロッドの言葉に、ルーナは思わず眉をひそめた。
(何を言ってんの、こいつ)
シリアスな雰囲気台無しだ。
(傷心中? アステロッドが?)
嘘をつけ、と即座に思う。
傷つくどころか、心臓に毛が生えているレベルの鋼鉄ハートの持ち主だろう。
「なんで傷心中なのよ」
このポーカーフェイスが大の得意な幼なじみは、一体何に傷ついているというのだろうか。
幼なじみのはずなのに、ルーナには何一つ分からない。
(私のことは、知られているのに)
それなのに、ルーナはアステロッドのことを詳しいとは言いがたかった。
「君がそれを言うの?」
アステロッドが寂しげに眉を下げる。
その表情の変化に胡散臭いと感じてしまうのは、彼の日頃の行いのせいだろう。
「君のせいで俺は傷心中なのに」
アステロッドの指が、ルーナの唇をなぞる。
「俺は君がずっと好きなのに」
ゆっくりとなぞられて、息をすることさえ躊躇ってしまう。
(この人は、誰……?)
分かっている。
この人は、アステロッドにほかならない。
幼なじみの、アステロッド・フェン・クリムナフだ。
それでも、ルーナは考えてしまう。
自分が今まで見てきたアステロッドと今目の前にいるアステロッドは、本当に同じ人物なのかと。
(それとも……)
自分が今まで見てきたアステロッドのほうが、偽物だったのだろうか。ポーカーフェイスに塗り固められた。
「ルーナ。侍従長殿のことが好き?」
「……っ」
アステロッドに直球に尋ねられて、ルーナは言葉に詰まってしまう。
(好きよ)
心の中では即座に答えられるのに、口に出すのに少しだけ躊躇ってしまった。
アステロッドとの間に、決定的な何かを投じてしまう気がして。
「……好きよ」
それでもルーナは口を開いた。
言わなければならない気がした。
「私は、マクシミリアンのことが好き」
じっと、アステロッドの濃紫の瞳を見つめる。
相変わらず、瞳の奥の感情は読み取れない。
しかし、ほんの少しだけ揺れるものを見つけたような気がして、ルーナは動揺してしまう。
「そう。俺は誰よりルーナが好き」
「……っ!!」
言うやいなや、アステロッドはルーナの顎をぐっと引き寄せた。
そのまま檻越しに口付けられる。
「いや……好きなんて言葉じゃ生ぬるい。狂おしいほどに、愛している」
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