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第4章*想いの糸は絡まり合う

43・甘酸っぱい

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 そうして夜が明けて。

 昇り始めた朝日がきらきらと窓から差し込み、優しくルーナを照らす。

「ん……」

 ゆっくりとまぶたを開くと、そこは自分の部屋のベッドの上だった。しかも裸。シーツをかけているとはいえ、裸でベッドに横になっている。
 
(……っ)

 瞬間昨夜の出来事を思い出して、ルーナは両手で頬を押えた。
 手のひらで押さえた頬が熱い。
 鏡がなくても、自分の顔が赤くなっていることは容易に想像がついた。

(私……! ついに……!)
 
 どうしようもなく恥ずかしくて、ルーナは身体にかけてあったシーツをひっかぶる。

 マクシミリアンと結ばれた。
 体だけじゃない。
 心までも。

(夢じゃない!? ねぇ、これほんと現実!?)

 一人脳内で問いかけを繰り返して、ルーナはふと我に返った。

「……あれ」

 そう言えば、当のマクシミリアンはどうしたのだろう。
 隣を見る。

(……いない)

 隣には誰もいなかった。
 ただ白いシーツだけが静かに広がっている。
 そっとシーツへ手を這わせると、そこにわずかな温もりが残っているのを感じた。
 
(でも、もしかしたら、今出ていったばかりなのかもしれない)
 
 そう考えるだけで、指に伝わってくる微かな熱が妙に生々しく思えてしまう。

(じゃあ、私とマクシミリアンの関係はどうなるんだろ。恋人?)

 これはゲームのワンシーンではない。
『MRL』の世界によく似てはいるが、今のルーナにとっては現実だ。

 恋に付きまとう悩みも何もかも、すべて現実。
 
(恋……)

 恋をしている。
 他でもない、マクシミリアンに。
 
(甘酸っぱい……)

 胸に沸き起こった嬉しいような恥ずかしいような気持ちを噛み締めるように、ルーナはシーツの端を握りしめた。

(ん? これ、なに?)

 そして気づく。
 枕元に、新しいシーツの替えと共にメモが残されていることに。
 手に取ると、白い紙の上にはきっちりとした文字が並んでいた。
 書き手はマクシミリアンしかいないだろう。

『先に仕事へ行きます。ルーナさんは、無理をなさらずに』

(あ、あ、あ……甘っ!)

 あまりにも優しい言葉に、ルーナはメモを握ったまま震えてしまった。
 というか、気が回りすぎだ。
 前世でも今世でも対して恋愛経験はないが、ここまで気が回る男などなかなかいないのではないかとルーナは思う。

(でも、シーツの替えまで用意って……)

 一瞬頭をよぎった『デリカシー』という言葉は、見て見ぬふりをすることにした。


*****


(ど、どうしよう)

 仕事の支度を整えて。
 ルーナは使用人控え室の前で立ち尽くしていた。
 
(どんな顔をすればいいのっ!!)

 媚薬による成り行きで、流されるように体を重ねたあの時とは訳が違う。
 昨夜のことを思い返してみると、痺れを切らして自分からマクシミリアンを誘ったようなものだ。
 何よりあの夜と決定的に違うのは、確実に互いの合意の上だということ。

(両想い……って、思ってもいいのかな……)

 この扉を開けて。
 その先にいるかもしれないマクシミリアンが顔色一つ変えてくれなかったらどうしようと、そんな不安がルーナの胸に湧き上がる。

「なに、しているんですか。ルーナさん」

「ひゃあっ!」

 ルーナの頭を悩ませている張本人の声が頭上から響き、ルーナは飛び上がった。
 いつの間にか使用人控え室の扉は開かれ、目の前には少し不思議そうな顔をしたマクシミリアンが立っている。

「え、と……あの、その……っ!」

 恥ずかしい。
 だが、それなのにマクシミリアンから目を逸らせない。
 頬を赤くしてルーナが慌てていると、マクシミリアンが先に目を逸らした。
 ルーナの赤さが移ったのか、赤くなった頬を隠すようにマクシミリアンは口元を押さえる。

「あまり、可愛い顔をなさらないでください……。朝から私の心臓を止めるおつもりですか」

(はい!?)

 一体この人は何を言っているんだろう。 
 ルーナは体へさらに熱が上るのを感じながら、思わず目を見開いた。

「そのような顔を見せるのは、私だけにしてくださいね」
 
 ボソリと、だがとびきり甘くマクシミリアンが囁くから、ルーナは何も言えなくなってしまう。

「う……ぁ……。はい……」

 そう返すだけで精一杯。

 ほんの少し前、自分は何を不安に思っていたのだろう。
 ルーナが想像した以上に、マクシミリアンは好意を態度で示してくれていた。

(甘酸っぱい)

 初めて感じる恋の味が、ルーナの胸を満たす。
 
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