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第3章*パーティーと気持ちの行方
32・王子と兄王子
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次の日から、マクシミリアンの言った通り仕事が山のように押し寄せてきた。
ルーナが担当しているのは主に招待状の作成だが、これがまた量が多い。
日頃王子が親しくしている貴族はもちろんのこと、繋がりを保ちたい貴族を中心に、角が立たないように満遍なく招待しなくてはならないのだ。
それが一通り片付いたら、今度は警備の手配をする。
これまたマクシミリアンが作成した手配書を元に、手配を進めていく。
当のマクシミリアンはと言えば、ルーナと一緒に書類仕事をしたり、当日の料理についてシェフと話し合ったり、王子の付き添いだなんだと忙しそうだった。
そんなこんなであっという間に日にちが過ぎて、気づけばパーティーまで1週間を切っていた。
*****
「やっと終わったわ……」
(疲れた……)
使用人控え室の中で一人きり。
ルーナはペンを投げ出すと、ぐったりと机に伏した。
ここ最近、王子の部屋の掃除をする以外は書類仕事ばかりで頭が痛い。
メイドがこれほどまでに頭脳仕事だとは思わなかった。
(まあ、専属だからでしょうけど)
王子関連の機密事項をほかの使用人に任せるわけにはいかない。
マクシミリアンとどうにか分担してこなしたが、一人だったときマクシミリアンはどうしていたのだろうと思う。
それほどまでに、仕事が多い。
「……最近、マクシミリアンとまともに話せてないな……」
ふと気づいて、ルーナの口からぽつりとこぼれた。
バタバタしていたせいか、マクシミリアンとは、最近仕事の会話ばかりだった。
距離が近づいたように感じていたのは、気のせいだったのだろうか。
(……会いたい)
会って、話したい。
その気持ちに気づいてしまえば、もう座ってなど居られなくなる。
(……このままここにいてもしょうがないし、他に仕事ないか、マクシミリアンに聞きに行こうかな)
少しでもいいから、マクシミリアンと話したい。
ルーナは廊下へ続く扉を開けた。
*****
今日は確か王子は、城へ登城してきた子爵をもてなしていたはずだ。
マクシミリアンもそれに付き添うと言っていた。
(少し、様子を見るだけね)
まだ終わっていないようなら出直そう。
そう考えながら客間の近くへ行くと、ちょうど子爵と思われる貴族然とした男が客間から出てくるところだった。
王子が、少し遅れて客間から出てくる。
後ろにはマクシミリアンもいた。
「マクシミリア――」
呼びかけようとしたルーナの声が、思わず止まる。
廊下の向こうから歩いてきた男が、王子に声をかけたからだ。
「ハイリ。今日も今日とて愛想を振りまいていたのか。必死なことだな」
「兄上……」
ハイリ王子の5つ年上の兄王子、フェンリル。
凍てつく氷のような眼差しでハイリ王子を一瞥すると、フェンリルは鼻で笑う。
ハイリ王子は気にした素振りもなくにこやかな笑みを浮かべた。
「僕はそれしか出来ないもので。フェンリル兄上、今日も良い一日でございましたね」
「はっ、よく言う。この俺に招待状なんぞよこしてからに。何が目的だ」
(仲わっるーーーー)
招待されなければ文句を言うくせに、招待されたらこれだ。
よくハイリ王子は笑っていられると、ルーナは尊敬してしまう。
「何も。ただ、兄上にもパーティーに来ていただきたいなと思っただけですよ」
きらきらきらきら……。
王子が効果音でもつきそうな微笑みで、フェンリルを見つめた。
眩しい……。
「殿下、その辺で。フェンリル様、殿下はまだご予定がございますので。失礼致します」
マクシミリアンは一歩前へ出ると、無表情のままでそう言った。
フェンリルは腹立たしそうに「ちっ」と舌打ちする。
王子とマクシミリアンはそのままフェンリルの横を通り抜け、こちらに向かってきた。
(げ……っ)
まずい。このままでは立ち聞きしていたことがバレてしまう。
「……ルーナ」
「ルーナさん」
慌てて逃げようとしたが遅かった。
バッチリ二人と目が合ってしまう。
「ルーナ。ついてこい」
「……はい」
王子の静かな言葉に、ルーナは従うほかなかった。
マクシミリアンの気遣うような視線を感じる。
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