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第2章*専属メイドのお仕事?

29・なかったことに出来ないのではなく(マクシミリアン視点)

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 ルーナが紅茶を飲んだあと、二人で残っていた執務を片付けて。
 気づけば本日の執務終了時間を超えようとしていた。
 マクシミリアンは書類を揃えていたルーナに、今日はもう上がってもいいと切り出した。
 

「じゃあ……あの、失礼します」

「ええ。また明日も、よろしくお願いします」

「……また、明日。マクシミリアン」

 照れたようにはにかんで、ルーナが使用人控え室を出ていく。
 パタンと扉が閉まり、マクシミリアンは頭を抱えた。

(何故私はあんなことを言ったんだ……!!)

 敬語を使わないで欲しい、など。
 どう考えても上司としてお願いすべきでないことを、部下に強要してしまった。

(私は……何故こんなにも)
 
 ルーナのことが気になるのだろう。

 彼女の“普通”の考え方が好きだから?
 彼女がハイリ殿下とアステロッドの二人に気に入られていて、不運で可哀想だから?
 それとも……あの夜のことがあったから?

 あの夜から、ルーナの顔を見るだけでマクシミリアンはおかしくなってしまう。

(もしかして私は……ルーナさんのことが、好き、なのか?)

 彼女を抱いたあの夜に感じた、甘くくすぶる熱が、数日経ったというのにまだ冷める気配がない。
 どうしても、目が勝手にルーナを追ってしまう。
 あの夜の。
 熱を帯びたルーナの視線が頭に焼き付いて、一向に消えてくれやしなかった。

(消えないどころか私は……)

 あの夜のような扇情的に乱れたルーナの姿を、自分以外の誰かが見たらと考えるだけで心がモヤモヤとして、胸の奥が焦げるようだ。
 
(私は……)

 先ほどルーナに言った言葉を思い出す。
 マクシミリアンはルーナに「なかったことに出来ない不器用な男で、申し訳ありません」と言った。
 だが、本当はそうではなくて。

「私は……なかったことにしたくなかったのか……?」

 誰もいない使用人控え室の中で、マクシミリアンは一人呟く。
 言葉にすると、思いのほかそれはしっくりときてしまった。
 すとんと胸の中に落ち、違和感もなくマクシミリアンの中に収まる。

(馬鹿か、私は。気付いたからと言って、どうすることも出来ないというのに)

 想いを打ち明けることに、なんのメリットがあるというのだろう。

(打ち明けても、ルーナさんを困らせるだけに決まっている)
  
 なぜならルーナにとってマクシミリアンは、大切なバージンを奪った憎き上司なのだろうから。
 ルーナの視線がマクシミリアンを嫌っているように見えないのは、自分の目の錯覚に違いない。そう思わなくては。

(私の言動に、たまに顔を赤らめるのも)

 自分の馬鹿な勘違いに決まっている。

 異性として意識してくれていると誤解してしまいそうな反応をするのはやめて欲しい、とマクシミリアンは思う。
 都合のいいように勘違いしてしまいたくなる。

(これは、私の一方的な感情なのだから)

 ルーナが自分に応えてくれるはずがない。
 ならばせめて、もうしばらくは。

 胸にくすぶるこのどうにも出来ない恋情を。
 感じたことがないほどの渇求を。
 抱えたままでいることくらいは許して欲しい。

 マクシミリアンは誰もいない使用人控え室の中から、しばらく動くことが出来なかった。
 
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