【完結】R-18乙女ゲームの主人公に転生しましたが、のし上がるつもりはありません。

柊木ほしな

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第2章*専属メイドのお仕事?

25・ただ私はあんたを殴りたいだけ。なにか文句ある?

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 アステロッドは口元だけ笑みを浮かべ、ルーナのほうへ一歩近づいた。

(目ぇ笑ってないよ、こいつ!)

「やぁ、おはようルーナ」

「おはようじゃないわよ! あんた私を殺すつもりだったのね!」

(信じられない! 本当最悪!)

 怒りに任せてアステロッドへ詰め寄り、ルーナはアステロッドの胸ぐらを掴んだ。
 この魔法使いだけは許せない。
 ルーナの殺気に満ちた視線を浴びているというのに、アステロッドはへらへらと笑っている。
 それが余計にルーナの怒りを煽る。

(腹立つわー……!)

 一発殴る程度では、ルーナの怒りは収まりそうにない。

「殺す? 何を言っているんだい、ルーナ。俺はそんなつもりなかったけど?」

「とぼけないでよ!」

 マクシミリアンとアステロッドなら、圧倒的にマクシミリアンのほうが信頼出来る。
 幼なじみのはずなのに、何を考えているのかまったく分からないアステロッドの言葉など、ルーナが信用出来るはずがなかった。

「とぼけるも何も……。嘘は言っていないよ? だって、俺が慰めるはずだったんだから」

「は……?」

(今こいつ、何を言った?)

 俺が慰めるはずだった……?
 それは、つまり……。
 
(昨日、下手をしたらアステロッドに抱かれてたってこと!? あっぶなあ!!)

 アステロッドの言葉が意味するものに気づいて、ぞぞぞっとルーナの体に寒気が走る。
 掴んでいたアステロッドの胸ぐらから手を離し、ルーナは慌てて距離をとった。
 後ろを確認せずに下がったせいで、トンと背中が何かにぶつかる。

「……っルーナさん、気持ちはわかりますが落ち着いてください」
 
 首だけ振り返って見あげれば、すぐ近くにマクシミリアンがいた。
 どうやらルーナはマクシミリアンの胸にぶつかってしまったようだった。
 ルーナの肩に軽く手を添えて、マクシミリアンは支えてくれる。
 
「ご、ごめんなさい……!」

「いえ」

 咄嗟に謝ったルーナに、マクシミリアンは短く返事を返した。

「あーあー、ほんとずるいなぁ! 侍従長殿は!」

 感情をあらわにしたアステロッドの声がする。
 アステロッドは苛立ちを隠さずに銀の髪をかきあげた。
 珍しい、とルーナは思う。
 
(いつもポーカーフェイスなくせに)

 ほんの少し前までは、機嫌が悪いようには見えなかった。
 たった数秒の間に、何かアステロッドの気分を害するようなことがあっただろうかと、ルーナは眉をひそめる。

(ほんと、何考えているのかわけわかんない)

 アステロッドは濃紫の瞳を、ルーナからマクシミリアンに向けた。
 まるで、蛇のような視線。
 まとわりついて、離さないかのような。

「ねぇ、侍従長殿。昨日は楽しかった?」
 
「……っ」

 アステロッドの言葉に、マクシミリアンが言葉を詰まらせる。
 アステロッドはマクシミリアンを見すえて、じっと目をそらさない。
 間に挟まれているルーナも、アステロッドの視線の冷たさに思わず息を詰まらせた。

「完全にルーナを俺のものにする予定だったのに。侍従長殿、ルーナの肩から手を離してよ」

 アステロッドがルーナの手を掴む。

「ちょっと、触らないでよ」

(むしろあんたが離せ)

 不愉快だ。
 いくら幼なじみであっても、やっていいことと悪いことがある。
 殺されかけたという事実は、並々ならぬ衝撃をルーナに与えた。
 どんな理由があってのことかは知らないが、そんなことはどうでもいい。
 ルーナにとって、アステロッドにそれほどまでに危険なものを飲まされたのだということだけは、紛れもない事実なのだから。
 
 だが、いくらルーナが振り解こうとしても、想像以上の強い力でアステロッドが腕を掴んでいるせいでなかなか振り解けない。

(アステロッドのやつ……っ)

「離しません」

(え……)

 思いもよらない言葉が頭上から降ってきて、ルーナは思わず動きを止めた。
 ルーナの肩に置いたマクシミリアンの手に、力がこもったように思う。
 少しだけマクシミリアンの側に体を引き寄せられて、ルーナの胸が勝手に鼓動を早める。

(え、え、ちょ……)

「ルーナさんを貴方に引き渡さなくて正解でしたね。彼女が可哀想だ」

「へぇ、可哀想……か。侍従長殿がそこまで人のことを気にするなんてね。ルーナのこと、気に入ったんだ?」

「…………」

 マクシミリアンは何も答えない。
 だが、アステロッドの言葉を否定もしない。

「アステロッド様、我々は貴方ほど暇ではない」

 マクシミリアンはアステロッドの問いには答えを返さず話を変えた。

「俺も暇じゃないんだけど?」

「仕事がありますので、失礼致します。行きますよ、ルーナさん」

「ちょ、ちょっと! マクシミリアン!?」

 アステロッドの言葉には耳を貸さず。
 マクシミリアンは、アステロッドが掴んでいるほうとは反対のルーナの腕を強く引っ張った。
 アステロッドの手はほんの少しだけ抵抗したあと、ルーナの手首からするりと離れていく。
 
(なんなの)

 先程まで、あれだけ強く掴んでいたくせに。
 ルーナは拍子抜けしてしまう。
 
(何がしたいのよ、アステロッド)

 だからこそ、ルーナの心に残ってしまうのだ。
 いつも小さな爪痕を、アステロッドは残していく。

 部屋の外へ向かうマクシミリアンについていきながら、ルーナは後ろを振り返る。
 アステロッドの貼り付けたいつもの笑顔の奥に、悔しさが見えた気がした。
 
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